表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

371/1240

第三十五話 シャボン玉の世界で (9)

「ぼくらは大層荒々しく扱われましたからねぇ。気になっちゃうんですよ」


 とオドラデク。


 フランツは頭を抱えた。これでは喧嘩になってしまう。


「お前が子供たちに危害を加えてくるかと思ったからだ」


 ところが、ボナヴェントゥーラは木訥に思えるぐらい静かに答えた。


「はぁーん? ほんとですかねぇ。すんごい怒ってたじゃないですかぁ?」


 相手が下手に出るとオドラデクは早速調子に乗り始めた。


 腰を手を回し大きく前のめりになって睨み付ける。


「確かに最初は怒った。だが、それより子供たちが心配になった」


 男は答えた。


 フランツにはとても正直に感じられた。


「縛めを解いてやれ」


 声を低めて言った。


「やーですよ。口先で惑わして攻撃してくるに違いない」


「はぁ」


 フランツはため息を吐いた。


「そう言えば、お前のシャボン玉を操る力をどこで身に付けたんだ?」


 急に思い出して訊いた。


 各地で拡散を続ける『鐘楼の悪魔』が関わっていたとしたら殺さなければならないだろう。


「生まれつきだ。他のことは何一つとして出来ないが」


 ボナヴェントゥーラは素直に答えた。


 幻想を実体化する能力。


 ルナ・ペルッツが使うものと種類が似ている。


 だが、ルナが何でも実体化できるのに対して、ボナヴェントゥーラはシャボン玉しか操れないようだ。その意味ではカスパー・ハウザーの手下たちの力と似ている。


 だが、直接の繋がりがあるようにはとても見えない。


 フランツは警戒しながらも、縛めを解いてやりたい気持ちもあり、両方へ揺れた。


「あーかったるい。この糸はね。ぼくらがこの場を立ち去ったら自動的に解けるように設定してあるんですよ」


 オドラデクはフランツの煮え切らない態度に飽き飽きした様子で説明した。


「本当か?」


「ぼくが嘘を吐きましたか?」


 オドラデクは怒り気味に言った。


「いつも吐いてるだろ」


「失礼なぁ」


 オドラデクは地団駄を踏んだが、やがてファキイルに向き直り、


「さ、連れていってくださいよ」


と長い服の裾を握った。


「もう行くのか」


 フランツは意外だった。


「もう宿に帰りたくなったんですよ! 雨は降らないけど。疲れましたしぃ! 精神的に!」


「我の言ったことは当たっただろう」


 ファキイルは自慢そうに言った。


 その姿をフランツは一瞬可愛いと思ってしまった。


――何を考えてるんだ。こいつは人間じゃないんだぞ。


「んじゃあな。こいつが言ったとおり、自然に解放されるらしいんで。もし、そうならない場合は人を呼ぶか、俺らの泊まってるとこ連絡を寄越してくれ。すぐに駆けつける」


 とフランツはボナヴェントゥーラに泊まっている宿の名前を告げた。


「んもー、ぼくを信頼してないなぁ。って知らない人に住所教えるんじゃありまっ、せんっ!」


 オドラデクは既に怒り顔を取り下げてニヤニヤとしていた。


 フランツが裾を掴むと、ファキイルは空に浮き上がった。


 もうすっかり夜だ。空は鈍色から闇に変わっていた。


 誰も歩いていない。


 人目に見つからずに飛行するにはかっこうの時間帯だ。


「おーい」


 陽気な声が下から響いてきた。


 カルメンだ。


 こんな時間になるまで歩き回ってるとはよっぽど暇なんだなとフランツは思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ