表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

370/1238

第三十五話 シャボン玉の世界で (8)

 やがてすぐにオドラデクの姿が見えてきた。


 ボナヴェントゥーラが睨み付けてくるのを前に、上半身を乗り出して突っかかっている。


「おいおい、何してくれやがっちゃってんですかぁ!」


 ボナヴェントゥーラは例の輪っかをオドラデクに向けるが、二度同じ手は喰わじと身を遠ざけた。


「どんな妖術を使ったか知りませんけどねぇ、ぼくを馬鹿にした罪、受けてもらいますよ!」


――お前、そんな性格じゃなかっただろ。


 フランツは突っ込みたい気になったが途中で呆れて黙った。


 オドラデクは片手をくるりと一回転させる。たちまちそれが糸に姿を戻し、輪っかへ絡みついた。


 輪っかはきれぎれになってバサリバサリと砕け落ちた。


 それを見てボナヴェントゥーラは目を見張った。


「貴様……よくも!」


 顔を真っ赤にしてオドラデクへ突撃していく。


 だが、こう言う勝負ならオドラデクは負けない。


 ひらりとかわして、ボナヴェントゥーラの足に糸を巻き付けた。


――殺すなよ。


 フランツは思った。


 ボナヴェントゥーラはただこっちが輪っかを勝手に使っていたことに怒っただけだ。


 それに対してこちらが殺したり手足を切り落としたりするのは間違っている。


 でも、オドラデクを止めて人道主義者ぶりたくはないフランツだった。


――俺は猟人なのだから。


 だがオドラデクはそんなことはしなかった。


 ボナヴェントゥーラを糸でグルグル巻きにして地面に横たえさせたのだ。


「お前、そんなことも出来るんだな」


 ファキイルとともに咫尺ちかくに降り立ったフランツは言った。


「もっ、ちろん!」


 オドラデクは威張った。


「じゃあ俺も助けられたはずだよな。それなのになんだ、輪切りになるとか」


 フランツは声に険を含ませた。


「てへっ。ぼく、そんなこと言ったんですね。忘れちゃいました」


 オドラデクは舌先をちょっぴり見せて、自分の頭をコツンと叩いた。


 その頭をどれほどフランツは撲りたくなったことだろう。


「ところで……こいつどうするんだ?」


「まあお仕置き……と言いたいところですが、ここに残しておきましょ。やり返してこないならいいんです」


 オドラデクは先が糸になっている腕を引いた。


 途端に糸は途切れ、ボナヴェントゥーラを縛めているものと、オドラデクの五本の指の形に戻ったものとに分かれた。


「ぼくは糸を各地に残しているんですよ。前言いましたよね。これもその一つってだけで」


「貴様ら、何者だ?」


 ボナヴェントゥーラが叫んだ。


「知らなくて良い。だが、俺がやったことは謝る。本当にすまなかった」


 フランツは頭を少し下げた。


「……」


 ボナヴェントゥーラは黙っていた。


「大事にしてた輪っかも壊してしまった。金なら幾らでも払う」


「いらん。家に幾らでもある」


 やっと答えが返ってきた。


「お前はここで何をやっているんだ?」


「俺は公園の番人だ」


 大男は観念したように目を瞑り、静かに言った。


「公園って……ここがそうなのか」


 フランツはやっと気付いた。特にそれらしい囲いも壁もなかったように思えたからだ。


「そうだ」


 ボナヴェントゥーラの答えはシンプルだった。


「シャボン玉で遊んでいるのか?」


「遊びに来ている子供たちを喜ばせるためでな」


 意外に思った。


 この男、ずいぶん兇暴なようで、そんな一面があるのか。


「子供を中に入れて飛ばしたりするのか」


「そんなことしない。する訳がないだろう」


 ボナヴェントゥーラの声に怒気が籠もった。


 フランツはまたしまったと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ