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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第三十五話 シャボン玉の世界で (3)

「めんどくさいなあ、結局ぼくが一番こき使われるんですからねぇ」


 オドラデクはノロノロと歩き出した。


「ここで活躍しなけりゃいつどこでするんだ」


「はいはい、まぁフランツさんがぼくを完全に頼り切るようになってくれてうれしいですよ」


 オドラデクは歩きながら胸を張った。


「さっさと行くぞ」


 フランツは後はもう喋らずに歩いた。ファキイルは全く無言でついてくる。


 興味深いことに、カルメンものそりのそりと歩いてくるではないか。


「お前は別に来なくていいぞ」


 フランツは無造作に言った。


 もう少し丁寧に言うべきだったかと後悔したが。


「いんやぁ、あたしも暇だからついてくよぉ。ルナさんの友達だもぉん」


 カルメンは気にしていないようだった。


「そんなにルナが好きなのか」


「すぐに意気投合! だったよぉ!」


 相変わらず間延びした調子で、カルメンは言った。


「そうか。まあルナは誰とでも仲良くなれるやつだからな」


「あんたははそうじゃないのぉ?」


「俺にはフランツって名があるぞ……仲良くなる相手は絞ってる方だ」


「フランツさんねぇー。覚えたぁよ!」


 相変わらずカルメンは陽気だ。


「あらあら。単に口べたで、コミュニケーション能力が低い言い訳しちゃってぇ」


 オドラデクが揶揄からかった。


「黙っとけ!」


 フランツは思わず怒鳴っていた。


「そんなことで怒るとか、自分から証拠出してるようなもんですよ!」


「うるさい」


 小声で言った。さすがに面映ゆくなってきた。


 図星だからだ。


 フランツはあまり交友の範囲を広げようと考える人間ではない。


 オドラデクはさほど長くはない付き合いでそういう気質を見抜いていたのだ。


「さっさと行くぞ」


 フランツはまた繰り返していた。


 パピーニは大きい街ではないとは言え、隅から隅まで歩くのは気が引ける。


 そろそろ酒場が混雑し始める時刻のため、そこを目指して歩き始めた。


 どこの街でも酒店ばかりへいくのを正直フランツは好まなかった結局情報が一番集まる場所なのだから仕方ない。


「カルメンは差別されたりしないのか。獣人はどこでも忌まれるだろ」


「ううんとぉ。やっぱりいろいろ言われはするかなぁ。でもぉ、慣れたぁよ。それにあたりはこれが弾けるからぁ。袖に隠れて弾いてるとお金が貰えるしぃ」


 と背嚢をごそごそと掻きわけて弦楽器を取り出した。


「何だそれは」


「ギタルラだよぉ!」


 カルメンは弦をさっと鳴らした。その音色は、ここにはない暖かく晴れたある日にそよぐ木の葉を思い出させた。


「いいですねぇ!」


 オドラデクは聞き痴れていた。


 一瞬、感動してしまったフランツはすぐにまた歩みを進めた。


 酒場に入るとオドラデクはすぐ主人に話を切り出す。


「ええ、凄い大暴れようでしたよ。巨大な鳥のかたちをした戦車みたいなものが、砲撃で大聖堂の一部が破壊しましてね。今急いで修復工事が行われているところです」


 その言葉でフランツは、街の中央部に位置する巨大な建物の周りに板や梯子が組まれて、布も掛けられていたことを思い出した。


「へえ、そりゃ凄い、この目で見てみたかったですねぇ」


 オドラデクは感心したようだった。


「地震かと思うぐらい大地が揺れたからなあ。うちでも年代物のワインの瓶が落ちたりして大変でした」


 主人は辛そうに言った。


「ルナ・ペルッツも来てたよなぁ」


 下卑た声が聞こえた。


 酔っ払いだ。

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