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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第三十四話 貴族の階段(4)

「コジンスキ家には、玄関の正面に大きな扇形に開いた階段があるんです。二階へ通じています」


 エルヴィラは説明した。


「それならどんなお屋敷にもあるだろうさ」


 ズデンカは腕を組んだ。特に珍しいものではないと思ったからだ。


「そうですね。でも、我が家の階段には奇怪な伝承があるんです」


「興味深い。どんな内容ですか?」


 ルナは目を輝かせて続きを催促した。


「百年近く昔のことになります」


エルヴィラは静かに話し始めた。

 

 

 当時、コジンスキ家には三人の兄弟がいました。互いにとても仲が悪くて、男爵の地位を巡って争い合っていたと伝わっています。


 長男レシェクは体格もよく、運動神経もありました。戦争の時は一番の武勲を立てたようです。


 次男ジグムントは勉強に優れ、諸国にその名を知られる文人でもあり、政府の要職を得ていました。


 常日頃から互いを亡きものにしたいと思っていたようです。


 とても優秀な息子たちでした。でも彼らは私の直系の先祖ではありません。三男アントニが高祖父にあたります。


 虚弱で頭も悪く、何をやってもからっきしだったアントニが男爵になれたのはひとえに運です。  


レシェクが突然馬から落ち、首の骨を折って寝たきりとなってしまったのです。文書に寄ればジグムントの策だともされていました。


自然ジグムントに注目が集まります。とは言え、首都ミツキェヴィチとの往復を兼ねた生活を送らなければならない立場上、所領へ戻ることは少なかったようです。


 アントニは一計を案じました。と言うより、思い付きでしょう。当時、半身不随のレシェクを車椅子に乗せて城内を移動させる役目を父の男爵から負わされていました。その途中で、手が滑った振りをして、レシェクを階段から突き落としたのです。


 私がお話した階段というのが、つまりそれです。


 頭の良い次兄ジグムントがいればすぐ見破られてしまいそうな稚拙な犯行でしたが、留守の間にやったようです。


 男爵もアントニを疑いました。しかし、使用人たちにもレシェク派が多い中、それを表に出せば、アントニの命が危うい。


 三兄弟の中で一番不出来な末息子を溺愛していた男爵は黙殺することに決めました。美しい後妻の産んだ子でしたから、兄二人と違い特別にかわいかったのでしょう。


 兄の死を知ったジグムントは喜び勇んで所領に戻ってきました。もちろん、父から次期男爵の確約を得ようとです。


 しかし、ここで悲劇が起きました。階段を上がった位置に飾ってあった中世期の甲冑の剣が突然落ち、登ろうとしたジグムントの心臓を刺し貫いたのです。


 これも史書ではアントニの犯行だとされています。でも、家には愚鈍なアントニがそんなことをできるはずはなく、偶然あるいはジグムントを憎んだレシェク派によるものだという話が伝わっています。


 自分の先祖のことを散々ですね。


 でもまんまと男爵の位をせしめたアントニにも不幸が訪れました。


それでも二十年ぐらいは何も起こらない平穏な日々が続いたようです。父の死後男爵となり、沢山の子供を設けたアントニは所領の管理も怠り、美食に更ける日々を送るようになっていました。


 それがある夜、不意に階段を降りる夢を見たというのです。

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