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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四話 一人舞台(7)

 リヒテンシュタットの邸宅は稽古場にも改装されていて、いつも多くの演劇人が出入りしていることで有名だった。



 ただ、二人が選んだのは深夜だったので、周りは静かだった。



 綺麗に刈り込まれた生垣の上で窓の明かりが煌々と灯っている。人影が幾つか過ぎっていった。



 門番もおらず玄関の鍵も掛かっていなかったため、二人は簡単に中へ侵入できた。



 騒ぎ回る男たちの声が廊下まで聞こえてきた。



 女たちの声も聞こえたが、それは苦しそうで誰かに助けを求めているかのようだった。



 部屋に近付き、壁の前にズデンカは立った。



「やめて! やめてください!」


「やめろっ言葉の意味はもっとやって欲しいってことだよ、俺はね、分かってる」



 男の声はふざけていた。



「良かったぜ」



 ズデンカは言った。



「部屋の中にいるやつらがド屑で」



 壁へ拳を叩き付けて突き破った。漆喰がひび割れ、腕が中へ吸い込まれた。



 数秒後に再び引き出されたとき、拳はどす黒く染まっていた。



 ズデンカは舐めた。



「その方が殺しがいがある」



 驚いて部屋の外へ飛び出してきた男の喉にズデンカは噛み付き、血を飲み干した。



 男が床へ崩れ落ちると、二人はするりと室内に入った。



 何名かの俳優が酒を飲みながら、傍に坐る女に無理に勧めるかたちで無理に飲ませている最中のようだった。



 ズデンカが壁を突き破った拳は正確に心臓を貫いていたらしい。血を吹き出して倒れる男を放り出して、既に半裸に近い格好になっていた一人の女が部屋を飛び出した。



 他の女たちも次々と逃げていくがべろべろに泥酔して出られない者もいた。



「貴様ら、何者だっ!」



 例の舞台でポール役をやっていた俳優が近付いて来た。手には火掻き棒が握られている。


 前まで迫ったかと思うと凄い勢いでズデンカの顔に打ちこむ。


 とたんにポールの首は胴体から離されていた。



「お前らのやってることは犯罪だぞ!」



 ロップス役の俳優がいきり立った。そう言いながらも嫌がる女の身体を触っていた。



 ズデンカは有無を言わさず爪でその顔を抉った。目玉が床へ飛び出す。



 続いてズデンカはロップスの頭を壁に叩き付けて潰した。そのまま亡骸に組み付いて勢いよく血を啜り始めた。



「おやおや、大層なご客人なことで」



 冷や汗を掻きながら、泥酔させた女二人を傍に置いて髭面の鋭い目をした男が言った。



「リヒテンシュタットさま、はじめまして。わたしはルナ・ペルッツと申します」



「これはこれは。高名なペルッツさまではないですか。しかし、このなさりよう。ご挨拶としてはいささか手荒じゃありませんかね?」



 飽くまで微笑みを形作りながらリヒテンシュタットは言った。



「実はわたしの友人であるヴィルヘルミーネさんが、あなたの開いた演劇講座に行って以来様子が変なのです。先ほどは自殺未遂を行いまして」



 ルナは無表情のまま続けた。

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