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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第三十話 蟻!蟻!(14)

「ブラヴォ! ブラヴォ!」


 ルナはしつこく繰り返しながら、拍手をしていた。


「どうする?」


 ズデンカは訊いた。


「まず何よりもボチェクさんだ」


 ルナは歩き出した。


「カミーユ、作業員さんたちを安全なところへお願いするよ」


「お前なあ」


 今回ばかりはルナの側に寄り添ってはいられない。


 カミーユも力があるとはいえ、作業員を全員運ぶのは難しく見えたからだ。


 幸い、蟻に食われた者たち以外は全員生き残っていた。


 軽々と二三人を抱え上げ、背中に乗せて、ズデンカは外に並べる。


 中には目を覚ます者もいた。


「……何が……あったんだ」


「静かにしてろ」


 お前は蟻を吐いていたなど説明できるはずもなく、ズデンカは黙らせるだけに留めた。


 大蟻喰は蟻を食べることに集中して、手伝いもしない。食べていなくても手伝わないだろうが。


 作業を続けながらもルナのことが引っ切りなしに気になる。


 ルナは既に厩舎から姿を消していた。


――どこにいるんだ。


 全員を助け出した後、ズデンカはすぐ動き出した。


 真っ先に探したのは先ほど三人で入った母屋だ。


 しかし、中は空虚がらんどうだった。先ほどは点いていたランプの灯りまで消されている。


 どちらにしても闇の中では目が利くズデンカには関係ないことだったが。


 何か手掛かりになりそうなものがないか探す。だが、とくには見つからない。


 ボチェクは日記のようなものも書いていなかったのだ。


――いや、証拠になるから燃やしたか。


 ルナのことが不安になった。


 幾らバリアがあるからとは言え、隙を突かれたらまずい。それに、ボチェクも万が一『鐘楼の悪魔』を持っていないとは限らないではないか。


 ズデンカは考えながら母屋を出た。


 と、いつの間にか探していた二人が目の前にいるではないか。


 ボチェクは顔を真っ赤にしながら、項垂れていた。


 ルナは宥めるようにその肩に手を置いている。


「息子さんは二人とも亡くなりました。あなたはその事実を受け入れなければならない」


 ルナは残酷な事実を冷静に伝えていた。


 ボチェクは答えず、ひたすら背中を震わせ続けている。


「子孫を残すのが生物の本能です。人間もまた然り。でも何人生まれたとして、その子がまた子を残すかはわからない。もっとも、蟻になったイザークざんは子を残そうとはしたようですけどね」


 ルナはさっきと同じことを繰り返した。少し付け加えて。


「おい、ルナ!」


 ズデンカは駈け寄る。


「ボチェクさん、さっきの一幕をこっそり覗いていたらしいよ」


 ルナがウィンクした。


 と、ボチェクが口を開いた。


「私は……二人に強い子でいて欲しかった」


「でも、あなたは余りにも構わなすぎた」


 ルナが言った。


「母親が生きてさえくれていたら!」


 ボチェクは怒鳴った。


「生きていたとして、あなたは変わったのですか? そのままだったんじゃないですか? どっちにしろ同じ結果だったかもしれません」


 ルナは冷ややかに笑った。


「子供と言っても、所詮は他人です。理解するには時間を掛けなくちゃいけません。わたしには関係ないことですけどね」


 ルナは歩き出した。


 ズデンカは物言わずそれに寄り添う。本当は言いたいことばかりだったが。


「さあて! ここの厩舎は借りれなくなっちゃった。せっかく四人もいるし、皆で手分けして探せばすぐだよ」


 相変わらず、ルナはヘラヘラしていた。

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