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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第三十話 蟻!蟻!(11)

「理由がわからん」


 実の息子が弟を手に掛けるところを黙って見ているとはあまりにも変だ。ましてや、その遺骸を涙ながらに埋めるなど。


 ズデンカには疑問だった。


「本人に聞いた方がいいよ」


 ルナは無関心そうに言った。


「また会えるとも限らねえのに」


 ズデンカは一刻も早くこの厩舎を立ち去りたい気分になっていた。


 ボチェクはサシャをすっかり埋めてしまっていた。


「無様だな、親父」


 イザークは近寄りもせず罵倒した。歪んだ笑みを浮かべながら。


「……」


 ボチェクは返事もせず息子に背中を向けて歩き出した。


「まあいい、どうせこれでサシャは皆の前で異常な行動をして姿を消したってことになるんだからな」


 イザークもあえて追うことはせず、無言で立ち去っていった。


 そのまま、幻は消えた。


「結局何もわからないまじゃん」


 大蟻喰は残念そうだった。


「いや、かなりわかったよ。後は本人に聞くだけだ」


 ルナはうきうきで歩き出した。


 ズデンカもすぐに尾いていく。


 他の二人の動きも気にはなりはしたが、先ず何よりもルナだ。

 


 

 厩舎に戻ってくると、雰囲気がさきほどまでとは一変していた。


 それは空が薄く沈んだ鈍色に変わっているのも関係しているかもしれない。


 今にも雨が降り出しそうだ。


 馬たちは項垂れ草を食んでいる。どこかその面もちには緊張の色が見えた。


 ズデンカはあたりを見回した。ゆっくり、蠢く音がどこかで聞こえた。


 作業員たちだ。


 藁の合間に姿が見えた。


 だが、皆前までとうってかわって話もせず、お互い顔を見交わすこともせずに、両手をぶらぶらと振りながら徘徊していた。


 ズデンカはその口から唾とともに大量の蟻が涌きだしていることに気付いた。


 ルナたちを見かけるなり、ゆっくり近寄ってくる。


――蟻に、支配されている。


 元スワスティカ親衛部長、カスパー・ハウザーの作り出す書物『鐘楼の悪魔』はさまざまな人たちを暴れさせたり化け物に変えてしまう。


 二人の旅する先にいつも現れて邪魔をしてくる。見付けたら破壊しているのだが一向に拡散が止む様子がない。


――それだけ、人は弱いのだ。


「本体を叩かないと元に戻らないよ。もしかしたら作業員さんたちは助かるかも。とにかく、イザークさんを探して」


ルナが耳元で言った。


「わかった」


「君は一番足が速い。ここはわたしたちで押さえておく。支援もやってきたし」


 カミーユと大蟻喰がやってきた。


――カミーユはともかく、もう片方はすぐに殺すからな。


 ズデンカは不安に思いながら駈け出した。


 思いの外厩舎は広く、馬たちを区切る柵がどこまでも延々と続いている。


 さっきはとても早く進めたが、どうしても今は遅くなってしまう。


 残してきた連中を遠目で観察しながら進まなければならないからだ。


――やはりここにはいないのか。


 切り上げて母屋の方へ向かおうとしたその時、イザークの姿が現れた。


 小高く積み上げた藁の上に座して、歩き回る作業員たちを見物していたのだ。


「……」


 ぼんやりとした顔付きで、口をパクパク言わせている。本人は操っているつもりかもしれないが、端から見れば操られているも同然だった。


「馬鹿野郎!」


 ズデンカは体当たりして、イザークを藁から弾き落とした。


 イザークは本を抱えたまま、地面に腹ばいに寝そべる。


「本を返せ!」


 ズデンカは近付いた。

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