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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四話 一人舞台(2)

 ポールは激怒した。



 ミシェルが殺害されたのだ。二人は永遠の愛を誓った恋人同士だった。



 殺害の方法はいとも凄惨なものだった。崖の上に縄で緊縛されて吊され、臓物をかっさばかれての死だった。



 縄は血で真っ赤に染まり、内臓は舞い降りた鷲に啄まれ続けていた。



 「許せん、俺のミシェルを奪ったのは誰だ?」



 ポールは殺した者を探そうと決意する。



 犯人はすぐに見つかる。



 ポールには飲んだくれ女のフェリシアという愛人がいた。



 フェリシアはやくざ者ロップスとも肉体関係を結んでいる宿命の女だった。



 「ポールは私だけのものよ!」



 心深く愛するポールを独り占めせんがため、ロップスをそそのかしてミシェルを殺害させたのだ。



 復讐を誓ったポールはロップスと決闘するが、右目を傷付けられ、あえなく敗れ川に流されてしまう。



 下流の村に漂着したポールは純真な村娘ドニーズに手厚く看病され息を吹き返すが記憶を失っていた。



 二人はすぐさま恋に落ちる。



 六年近くが経ち二人の間には可愛らしい娘が生まれていた。



 そこに現れたのがやくざの親分に成り上がっていたロップスとフェリシアだ。


 村でポールと思われる男が別の女と暮らしていることを聞きつけたフェリシアは憎らしくてたまらなくなり、またもロップスを唆して妻子を殺させようしたのだ。



 ポールが家を出た隙をうかがいロップスはドニーズとポールの娘を陵辱する。



 このシーンがまた凄まじいものだった。鳴き叫ぶドニーズをロップスが何度も殴る。真に迫った俳優の悲鳴の演技に、劇場の多くの観客が身を震わせていた。



 娘もまた裸同然にされ、ロップスに犯されるさまが舞台の上で繰り広げられていた。



 斧で頭を割られた妻、槍で串刺しにされた娘。



 ポールは頭を抱え、天を衝く大声で泣き叫ぶ。眼帯で隠された目を押さえ、痛みをこらえた。



 過去の記憶を思い出したのだ。



「絶対に許さん!」



 ポールは妻を殺した斧を片手にロップスの元へ乗り込む。



 立ち回りが繰り広げられ、一人また一人とロップスの部下をなぎ倒すポール。



 最後にロップスと激しい決闘の上、打ち斃すポール。



「フェリシアはどこだ?」


「鐘楼の上だ……」



 虫の息で女の居所を明かすロップス。



 怒りに身を任せ、鐘楼の階段を駆け上るポール。



 毒々しい衣装で着飾ったフェリシアがそこには立っていた。



「俺から全てを奪って満足か?」



「わたしはただ、愛するあなたが欲しかっただけよ!」



 そうやってポールに身を絡めるフェリシア。



 ポールには一瞬その顔が悪魔に見えた。



 ここで実際にフェリシア役の俳優はおどろおどろしい悪魔の被り物をして観客を驚かせる。



 驚愕したポールはフェリシアを鐘楼から投げ落とす。



 恐ろしい悲鳴をあげ落下していくフェリシア。



 それを見つめるポールだったが、彼の目はうつろだった。



「俺は多大なる犠牲を払った。だが、見返りは収まりの付かない怒り以外に何もないのだ!」



 そう言って頭を抱えて永遠の絶望に陥るポールだった。

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