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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第二十五話 隊商(6)

 小生はすぐに解決法が出てしまったように感じられ、少しだけ嫌な気分になりました。


 コレットは隊商を目掛けて駆け寄ります。


「あのさあ、ちょっと」


 だが、言葉が通じないためでしょうか。隊商はコレットを無視して通り過ぎていきます。


「ねえ、ちょっと待ってよ!」


 コレットの声は焦りを帯びました。


 膝を付き、駱駝にぶつからない限りで身体を前に出して、遮ろうとします。


 しかし、隊商は通り過ぎていくのです。


「危ない!」


 心なしか叫んでいました。


 コレットが駱駝のたてがみを触ろうとしたのです。


 ところが、その手はすり抜けて空を掴みました。


「すごく不思議だね」


 小生は駆け寄って言いました。


「これは幻なのかな?」


 コレットは不思議そうな顔をしていました。


「月の雫を売るぐらいだから、その存在も幻に近いのかも知れない」


 思い付きでしたが、小生は言いました。


「そっか」


 コレットは残念そうな顔をしていました。


「尾いていけば何か方法が分かるかも知れないよ」


 小生は言いました。少しぐらい、決然としたところを見せたかったのです。


「行こう!」


 コレットはそんな小生の気持ちも知らずに、歩き出しました。


 追いつくまでにはまただいぶ時間が掛かってしまいました。


 隊商の列はそれ自体とても長く、絶え間ないように見えました。でも、一番先頭には辿り着きました。


 白いターバンを被った、年老いた男が顔を俯けて駱駝の上にいました。


 鞍には高価そうな刺繍が施されたクッションまで取り付けられていたことを今でも鮮明に覚えていますよ。


「ねえ」


 コレットが声を掛けても相変わらず無視して、先へ先へと進んでいきます。


「なら、とことん最後まで行ってやるさ」


 コレットはその駱駝に並んで歩き続けました。


 小生はため息を吐きました。身体が持たないと思いましたが、コレットは考えを翻すことはないでしょう。


 普段から一度決めたら曲げない性格とよく知っていたのです。


「他に探そうよ、ねえ」


 コレットは答えません。  

 

 三十分ばかり歩くと、足が疲れてきました。


 靴に砂がたくさん入り込んできます。


 でも、いつもと違って立ち止まることができないので、最初はこそばゆく、次第次第に痛くなってきました。


 足にマメが出来て、血だらけになりつつあると考えれば、良い気持ちにもなれません。


 一時間を越えて、小生はとうとう立ち止まってしまいました。


 息が切れてきたし、腰から下が怠くなって我慢できなくなったのです。


 お尻から砂の上にへたりこんでしまいましたよ。


 同じく靴に砂が入り込んできているはずなのに、コレットは目を輝かせ、隊商の行き着く果てまで追いかけるつもりのようです。


 しばらく列が続いて行くのを無言で見送っていきました。


 もう十分ぐらい静かにしていても、まだ隊商はまた末尾の姿を見せません。


 小生はたかを括っていたのでしょうね。


 やっと落ち着いてきたので再び立ち上がり、列の先頭を目指して走り始めました。


 しかし。


 いくら行ってもいくら行っても、列の先頭の、件の男が見当たらず、奴と並んでいたはずのコレットもまた見当たらないのです。


 いきなり心臓がバクバクと高鳴り始めましたよ。


「コレット!」


 小生は怒鳴り声を上げました。


 でも、返事はありません。


 頭がおかしくなりそうでした。


「コレット! コレット! コレット!」


 何度も何度も走りながら叫びました。


 幾ら辿っても駱駝の先には別の駱駝がおり、終わる様子が見えません。

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