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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第二十五話 隊商(4)

「全員立ち上がれと、命じられています」


 通訳が言いました。


 皆、アーズィムとやらの言う通りにしました。


 思わず知らず鋭い眼光に射すくめられます。


 小生と視線が合ってしまったのです。


 まだ幼かったのでしょうね。思わず何か口走っていました。


 アーズィムは笑みを浮かべました。言葉は通じずとも、怯える小生の姿がおかしかったのでしょう。手の中で転げ回るハムスターを見るような感じだったのでしょうね。


 また、何か喋っていました。


「そこの者、近くに寄れ。とのことです」


 通訳が告げました。


 小生は従いました。


 以下の会話は全て通訳を介してなされたものですが、煩雑なのでわかりやすく語りますね。


「お前の歳は幾つだ?」


「二十です」


「俺と同じだな」


 小生は何も言いませんでした。


「なぜ俺を見た?」


 アズィームは微笑を収めました。


「偶然です」


 手足が震えています。でも小生はアズィームから目を離せませんでした。


 既に幾人も人を殺めてきたような、血生臭いものを感じ取ったからです。


「面白いな」


 その言葉とは裏腹に、アズィームは笑いませんでした。


「……」


 褒められたのか、笑われたのか、わかりませんでした。ともかく、この場を逃れたい一心でした。


 夜はけゆくのに、脂汗がだらだらと止まることはありません。


「俺は隊商が見たい」 


 アズィームはぽつりと言いました。


「な、なんと仰ったんですか?」


 うまく聞き取ることができなかったからです。


「隊商だ。列を組んで、物を商う者たちだ。意外に物知らずだな」


 隊商ならもちろん知っています。行き合った者たちの中にも、いたはずです。ただ、なぜアズィームがいきなりそんなことを言い出すのか、訳が湧かなかったので。


「それなら、近くにも」


「俺が見たいのはただの隊商ではない。ルナの雫を扱う隊商だ。俺はそれが欲しいのだ」


 アズィームな『月』だけ我々の言葉を使いました。だから今でも強く印象に残っています。


 そうです。ペルッツさまの名前と同じ、『ルナ』。


 しかし、その雫なんて、そんなもの、童話の中以外、どこに存在すると言うのでしょうか。


 無理難題とはまさにこのことです。


「俺の願いを叶えれば、皆助けてやろう。お前が叶えるのだ。丸一昼夜時間をやる。若しお前が出来ないのなら、ここにいる全員を殺す」


 この言葉を伝えたとき、通訳の膝が震えていました。


 皆も小生を見て怯えていました。


 ただ、コレットだけは物怖じせず、ズンズンと小生とアズィームの方に近付いて来ました。


「ちょっとさぁ。さっきから黙って聞いてりゃ好き勝手言ってくれちゃって、月の雫って、そんなものあるわけないじゃん」


 勢いよく迫ってアズィームを睨み付けました。


 言葉が通じないのに、アズィームはまた、微笑みを浮かべました。


「面白い女だ。よし、面白い男と面白い女で月の雫を探せ」


 アズィームはそう言って振り返り、家来たちに合図をしました。


 途端に駱駝に乗った兵士たちは、シャムシールを振り上げながら、皆の周りを取り囲みます。


 逃げようと走りだした仲間の一人の背中が、一刀のもとに断ち切られました。


 小生は震えて下を見ました。その手をコレットが何も言わずに握ってくれました。


「さあ、今すぐ出発しろ」


 小生とコレットは輪の中から無理矢理二人だけ出されました。


「頼むぞ」


 ヴァールブルクが情けなそうにこちらを見てきます。


 その時ほど、付いてきたのは間違いだったと感じた瞬間はありませんでした。

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