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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第二十五話 隊商(3)

 向こうから色々話しかけてくれるのです。最初のうちは少しばかりドキドキはしましたが、自然と仲良くなりました。


「なかなかそうもいかないよ。寝るときも大変だし」


 小生はなおもぼやきました。


 砂漠で眠るってどういうことだかお分かりでしょうか? テントを張って、現地で買った絨毯を敷いて横になると、激しい音が聞こえてくるんですよ。


 風の声です。それが耳元で吠え猛るようにずっと、何時間も続きます。


 最初のうちはまるで寝付けませんでした。他の皆も同じだったので、話をして一夜を明かしました。


 何日も経つと流石に疲れて眠ってしまえるようになりました。


 起きたら耳や鼻に砂が詰まっていましたがね。


 ある日など、方位磁石で見ると寝る前と頭の位置が逆になっていることもありました。


 まあ、砂漠ではこの程度の不思議なことはよくありますよ。


 これから小生が話す怪異と比べれば大したものではないですがね。


 閑話休題。 


「あたしなんざ、最初の日から寝てたけどね」


 コレットの言に違いはありませんでした。皆が話している間も、いびきをかいて寝ていたのですから。


 なんて肝の据わった女だと思ったものですよ。


 それもそのはず、コレットは孤児で、幼い頃からサーカスからサーカスを旅して回って大きくなったのです。


 曲芸の腕前は大したものでしたよ。天井から吊られた縄梯子から縄梯子へ見事な弧を描いて飛び移るのです。


 逆に言えばそこまで己の技を磨かなければ生きていけなかった、ということでしょう。


 今だからこそわかることですが。


 非常に劣悪な環境で生活していたともあったと訊きますので、砂漠で寝るなんてことはたいしたことではないのでしょう。


 そう思うと、小生はますますコレットのことが好きになるのでした。


 サーカス団は一列になって灼熱の太陽に照りつけられながら進みます。


「あ、人が来る!」


 小生より少し先を歩いていたコレットが遠くを指差して驚いたように叫びました。


 先ほどもお伝えしました通り、駱駝を連れた旅人と行き合うこともありました。


 だから、何でコレットが大声を上げたのかよく分からなかったのですが、指差す方を見ればすぐに理解できました。


 宝石を取り付けた黒いターバンに片手刀シャムシール、日に焼けた肌に長い髭、それはまさに砂漠の王族に間違いなかったのです。


 最初、髭のせいで見誤りましたが、年齢は小生と同じぐらいだったでしょう。


 その後ろには駱駝に乗って武装した兵士たちの列が、皆続いていました。


 小生は動けなくなり、絶句してしまっていました。サーカスだの仲間たちもまた、動きを止めて目の前にやってくる連中をただただ見詰めているだけでした。


 ガイド兼通訳の現地の男性と、横にいたヴァールブルクが何か話し合っていました。


「おいお前ら、脇へ避けろ。下を向いて平伏しろ!」


 焦りながらヴァールブルクは叫びました。


 皆、その通りにしました。小生もコレットも含めて。 


 砂漠の王族たちの雰囲気には、何か物々しく、命の危険を感じさせるものがありましたから。


 地に頭を押し付ける前に見た月明かりは冷え冷えと身を切るようで、次第に暗く寒くなってくる砂漠の夜を予感させます。


 やがて隊列は小生らの目の前へやってきました。


 先頭の王族が何かこちらには理解不能な言語で叫びました。


 通訳が立ち上がって、王族に何かを説明しました。


 しばらく会話が続きます。小生はこっそり頭を擡げては下ろしながら、様子を伺っていました。


「皆、ついてこいと言われています。このお方はこの周辺の地域を支配するアーズィムさまです」


 その名前を、初めて知りました。

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