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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第二十四話 氷の海のガレオン(11)

しばらく進むと、フランツたちが乗ってきた船と行き合った。氷が溶けたため、航路を進み始めたようだ。


 たくさんいる乗客の姿が小さく見えてきた。さすがに船が動き出したためか、甲板に出て来ている数は少なくなっていたが。


 ファキイルは高度を上げ、見つからないぐらいの位置へ移った。


 本来なら、この船と行く先は同じなはずだが。


「あいつらに見つかるとまずいでしょうからねえ。ファキイルさん、よくわかってるぅ!」


 オドラデクはヨイショした。


「人間に見つかるといつも良くない思いをしてきたのでな」


 ファキイルは答えた。


 フランツは心の中であの美しい婦人たちともう二度と会えないのかと、寂しい思いをしている自分に気付いた。


――何を馬鹿みたいなことを考えているんだ俺は。気持ち悪い。


 自分の頬を叩く。


「あれ、フランツさん、どうしましたぁ?」


 オドラデクは眼をキラキラ輝せて見詰めてきた。


「なんでもない。物思いだ」


「へえ、フランツさんがねぇ」


 オドラデクはニヤニヤ笑っていた。


「汝らはよく喋るな」


「ファキイルさんもなかなか色々教えてくれたじゃないですか」


「問われれば答える。それだけの話だ。百年は誰とも話さずに過ごしたこともある」


「それ、言い過ぎ! 百年もお喋りできずに暮らすなんてぇ、ぼくには考えられなぁい!」


「まことの話なのだが」


 ファキイルはあまり表情を変えないが困惑した様子が見えた。


「話さないやつもこの世にはいる。皆お前みたいな奴じゃないってことだ」


 フランツは咎めるように言った。


「いつもあなたはぼくの味方になってくれないんですねえ」


「お前が味方になれないようなことばかりくっちゃべるからだ。お前が正しい事を言えば俺も同意する」


「へえ、そうなんだあ。じゃあ、正しいこと言ってやりますよ。フランツさん、あの船の中で女性がたに見惚みとれてたでしょ?」


 図星だった。


 心の中を言い当てられた驚きのあまり、フランツはに放っていたロープの裾を離してしまいそうになった。


「なぜそれを……」


 フランツは口ごもりながら言った。


「なぜって丸分かりですよ。はははははっ。ぼくの眼は欺けません」


「フランツは恋をするのか」


 ファキイルまで訊いてきた。


「なっ、何を言う!」


 なおさらフランツは狼狽えた。


「人間は恋をする。だから、我は気になる。教えてくれないか?」


 ファキイルの語調には嘲笑うものは含まれていなかった。


 純粋に興味を抱いているらしい。


「おっ、俺も知らん!」


 フランツはムキになっていた。


「恋を知らないのか」


 ファキイルは残念そうだった。相変わらずハッキリと顔には出さないが。


 フランツは自分が不誠実なことをしているような気分に陥った。


「知識としては理解している。だが、俺自身はまだしたことがない」


 それはほとんど事実だった。フランツは、ルナ・ペルッツへ向けるこの感情を恋だと認めたくなかった。


――恋など、しなくても生きていける。


「フランツさんも、いつかは心から好きになる女性と出会うかも知れませんねえ」


 オドラデクは予言するかのようにフランツに身を寄せて耳に囁いた。


「気持ち悪いな」


 フランツはファキイルの裾を辿りながら身を引き離した。


「アモスは誰かを恋しているようだった。誰を好いていたのだろうか」


 ファキイルは頭を傾けた。


「あなたが好きだったのかもしれませんよ」


 オドラデクは笑っていった。


 フランツは止めようとした。ファキイルにアモスの話をするのは地雷だと思ったのだ。

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