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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第二十四話 氷の海のガレオン(6)

 オドラデクは手を伸ばした。すると、その指先からスルスルと腕が解けてさまざまな色に輝く糸になった。


 マストに結び付けられた縄へ勢いよく振られると、たちまち両断した。


 パサリと、音もなく梯子は落ち、その先が右舷に引っ掛かって、氷の外へ垂れた。


「よし」


 フランツは鞘を振るって縄を引き、手繰り寄せた。


 そのまま足を掛けて登り始める。


「ぼくが功労者なんですから、先にしてくださいよぉ」


 オドラデクが駆けてくるが、フランツは無視した。その手はもう元に戻っている。


 船縁を乗り越えて、中へ転がりこんだ。


 はずみで膝の骨を打った。声も出さず痛みをこらえて立ち上がる。


 甲板の床板はところどころ腐れ落ちていた。歳月の経過を感じる。


「よいしょっと!」


 と掛け声して勢いよく舷を乗り越えたオドラデクが頭ごと甲板をぶち抜いていた。


「馬鹿だろ」


 フランツは呆れた。


「いやあ、凄いものが見られましたよ」


 オドラデクは顔を埃と蜘蛛の巣まみれにしながら顔を上げる。


「何だ?」


 フランツはあまり興味がなかったがとりあえず訊いた。


「髑髏です。沢山の人間の死骸ですよ」


「そりゃ漂流船だ。少なからずはあるだろうな」


 フランツは平然としていた。


「あれ、驚かないんですか?」


「その程度で驚いていたらスワスティカ猟人は務まらん」


「へええ、随分ふかすんですね。じゃあ、その指輪に宝石がはまっていたとしたら?」


「まるでおとぎ話の海賊だな」


「そのおとぎ話の海賊が今目の前にいるんですよ。三角帽子も被ってましたし!」


 オドラデクは亢奮している風を装っていた。


「なら降りてみるか」


 宝石にも金にも興味がなかったが、海賊と訊くとロマンがくすぐられるものがあった。フランツも一端に海洋冒険小説を読み耽った頃があったのだ。


「そうしましょう」


 オドラデクは自主的に動いた。


 まず、床板に開いた穴を両腕で押し広げる。


 手をさっと振り払ってマストに掛かったロープをまた一本長めに切り取った。


 そして、飛び出た木の板を三つばかりまとめて縄でグルグル巻きにし、その端を下へ落としたのだ。


「板が崩れ落ちても知らんぞ」


 フランツは懐疑的だった。


 オドラデクはひらりと甲板に開いた穴から縄を伝って下へ降りた。


「ぼくは体重が軽いんですよ」


 下から勝ち誇った声で言う。


 フランツは開いた穴から見た。オドラデクはテーブルの上に着地している。その周りに言に違わず三角帽子を被った海賊たちが列座したまま、骨と化していた。


「いけるか」


 フランツも思いきって縄を辿って降りた。


 選択は間違いではなかった。


 テーブルの上にはかつては果物などもあったのだろうが、今は腐敗した泥のようなものが蟠っているだけだ。  


 海賊たちはその闇のような眼窩を一斉にフランツへ向けてきていた。


「指輪頂き!」


 オドラデクは黙々と宝石を海賊の指から引き抜いていった。


「なにか書類は持っていないか?」


 フランツは訊いた。


「あ。巻物みたいなのはありますね」


 テーブルの端のように丸めた羊皮紙が置いてあった。


「宝の地図かも?」


 オドラデクは開いてみた。


「ふむ。何だこりゃ?」


 赤い字で捩れた文字がたくさん綴られていた。


「俺も読めないな」


 フランツも横から覗いたが、まるでわからない。


――ルナなら何とかなるのだろう。


 そう考えた瞬間。


 足首を何者かに強く引っ張られていることに気付いた。


 驚いて足元を見ると骸骨の手だ。


「うわー!」


 隣を見るとオドラデクへも骨の海賊が覆い被さっていた。


「言わんこっちゃない」


 フランツは手を引き剥がそうとした。

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