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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第二十四話 氷の海のガレオン(4)

 船員たちが他の客の対応で大童おおわらわとなっている隙に、フランツたちは船の脇へ素早く行っていた。


 あまり人の集まっていない左舷の隅に縄梯子は畳まれて置いてあった。右舷側にもあるのだろうが、こちらの方が移動しやすかったのだ。


「これが昔のガレオン船なら、檣楼とかに登るためにマストに縄梯子が結わえ付けられていたんでしょうけどね。でも、こんな隅の方に置いてたら沈没するかもって時、取りにいくのは大変でしょうね。船が片側に傾いただけで死者が何人も出そうですから」


 他人事のようにオドラデクは言った。


「さっさと降りるぞ。船員に見つかる」


 フランツは言うよりも先に身体を動かしていた。


 二人ともスルスルとたくみに梯子を伝い降りた。


「さすが、猟人ハンターとして長年鍛えたかいがありましたね。パチパチ」


 あからさまに馬鹿っぽく拍手をしながらオドラデクは歩いた。


 フランツは答えない。いつものことだ。


 激しい冷気が出迎えてくれる。


 結局外套を調達できず背広とシャツで行かなければならなかったため、フランツは身震いを堪えた。


 氷ははてしなくどこまでも広がっているかのようだった。


 視界を遮るものとてほとんど見当たらない。


 だが、よく目を凝らすと、水平線よりはるかに近くに何か一つの黒い点が見えた。


 二人はそこを目指して歩いていく。


「持ってきて良かったですね」


 と言いながらオドラデクは双眼鏡を懐から取り出した。これもフランツが事前に買いそろえておいたものだ。


「貸せ」


 フランツはオドラデクからひったくって、それを眼に当てて観察した。


――船だ。


「あー、ぼくが最初って決めておいたのに!」


 わめいて縋ってくるオドラデクの頭を掌で押し留めながら、フランツは思った。


「ガレオン、か」


 さっきオドラデクが口にしていたガレオン船だ。現代はもうどの国でも使われていないだろう。


「今時あんなものが残っているとはな」


 と言いながらフランツは双眼鏡を渡した。


「ふむふむ」


 ようやくお目当てのものを貰えて喜びながらオドラデクは双眼鏡を通して船を見ていた。


「『海路道しるべ』によれば、このあたりを三百年ぐらい前、海賊が往還していたらしいですよ。幽霊船が出るという噂もあります。遭難した船が彷徨っているとか」


「よく読み込んでいるじゃないか」


 フランツは呆れた。


「まあ、ざっとはね」


 オドラデクは笑った。


「船はガレオンだったのか」


「そこまでは書いていません。でもまあ海賊なんだから使っていてもおかしくないでしょう」


「適当だな」


 フランツは足を進めた。百聞は一見にしかずだ。


 それには答えなかったオドラデクだが、


「ここまで亀裂がないのが不自然だなあ。ぼくが割っちまいましょうかねえ」


 とやけに荒っぽくうそぶいた。


「やめろ」


「いえね、ひょっとしたらこれ、幻想なんじゃないかなって思ったんですよ」


「幻想? だとしたら何で目の前に現れるんだ」


 フランツは首を傾げた。


「ルナ・ペルッツ」


 オドラデクが告げる言葉にふとフランツの足が止まった。


「ルナ・ペルッツは幻想を現実に実体化できる能力を持っているって評判です。ぼくの調査の限りでも、世間一般でも。まあ知ってる人は知っている」


「だからどうした」


 フランツも知っていた。


 ルナの力は特殊だ。

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