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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第二十四話 氷の海のガレオン(2)

 ズデンカとは、綺譚収集者アンソロジストルナ・ペルッツに付かず離れず行を共にするメイドだ。


 直接話はしていないが、その姿を見たことは一、二度ある。


 先日、トゥールーズ首都エルキュールのカフェで顔を見たばかりだ。


 このメイドについてフランツは何も知らない。ルナに詳しく聞いてみたことすらない。ここ一年は会うことも少なかったから。 


 共にスワスティカを狩ろうと勧めても、ルナは絶対に首を縦に振らないのだ。


――ズデンカがいるからだろうか。


 ズデンカと言うメイドの話を聞く度に、フランツはなぜか嫌な気分になる。 


 だが、十分沈み込んでいる今は、オドラデクの口からその名前が出てくる驚きもあって、かえって亢奮していた。


 オドラデクはズデンカと会ったときは大人しく鞘の中に収まっていた。


「知ってるもなにも、各地で評判になっていますよ。ほら、『第十綺譚集』の献辞にも名前が載ってるほどです。ゴルダヴァ生まれで少なくとも百年以上は『存在』しているはずだ。もう死んでるからそういう言葉の使い方をするんですけどね」


「いつのまにそこまで」


 フランツは自分が何も知らなかったことに苛立ちすら覚えた。


「フランツさんが無関心なだけですよ。ぼくも引き籠もってばかりなようで、色々情報網を張っているんです。糸を各地に残しているいますしね。人の話は一杯聞こえてくる。まあ良い評判ばかりではないですが」


 本当のオドラデクの姿は糸巻きのようなかたちをしている。その糸をあちらこちらに残していることをフランツは初めて知った。


「そんな力があったのか」


「ぼくは色々隠してることありますよ。全部をフランツさんに話す必要なんてないし」


 オドラデクは含み笑いをしながらフランツを見詰めた。


「……」


 フランツはぼんやりしていた。酷く疲れたような気がする。


「寝よう」


 オドラデクが尾いてくることは期待せず、一人で階段を降りて、客室を目指した。


 この船には今、百人ぐらいが乗っているだろうか。


 美しく着飾った婦人たちもいて、長らく寂しい旅を続けてきたフランツは廊下で擦れ違うとドキドキした。


「知り合いになれないものだろうか」


 一瞬、年相応にそんなことを考えてしまう。だが、フランツにはスワスティカ残党を狩るという使命がある。


 頭を振って先へ進んだ。


 部屋番号は頭に叩き込んでいたのであまり手間取らずに客室は見つかった。


 ほっとしたついでにかあくびが出る。


 中に入って二段ベッドの上に寝た。何者かが侵入してきた場合、そいつより高い位置から攻撃できるようにするためだ。とは言え、刀身であるオドラデクを欠いた今のフランツは丸腰なのだが。


 疲れているためか、床に着いたとたん意識が途切れた。


 ハッとして目覚めると、窓の外が暗くなっていた。


 時計を見ると三時間後ほど寝入っていたらしい。


 手に冷気が絡みつく。


 周りの温度が下がったようで、肩先から足先まで痛みが走るほど冷えていた。


「もう春が近いのに」


 震えをこらえ、そうごねながら毛布を引き寄せる。


「フランツさん、フランツさん」 


 キラキラ眼を光らせながらオドラデクが部屋に入ってきた。


「どうした」


「起こったんですよ。面白いことが」

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