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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第二十三話 犬狼都市(8)

 犬たちの背中より翼が生えていたのだ。


 額に角やノコギリのある犬たちは飛び立って、たくさんの黒い天使のように、ルナの頭上を舞った。


 「きついね」


 ルナがまた、咳混じりの息を吐いた。


「雷をもっと落とせないのか?」


 ズデンカは焦っていた。


「このあたりは住宅街も多くて」


 確かに今いる地域は木造建築も多く、ここで発火すれば家が焼けて中に住む人が死ぬだけではなく、自分たちも危なくなる可能性がある。梁が焼け落ちて、道路を塞いだらまわり道をしなければならなくなる。


――どう見てもこのままじゃジリ貧だ。


 ズデンカは周りを見た。


――まだ二人だけなら何とか逃げられるのだが。


 後続の連中を切り捨てたい気持ちがわき上がってきた。


 考えている暇はない。ズデンカは闘った。


 だが、相手は空から爪を振り下ろしてくる。低空飛行になった時に喉を引き裂いて墜落させるのが精一杯だ。


――地面を這い回っている連中の相手だけでも大変なのに。


 ただ羽根や角が生えたせいか、犬たちの動きは鈍くなったようにも思えた。


 足を速め、広くて他の家に隣接しない広場まできた。出口の門まではもう少しだ。


「ルナ」


 ルナは返事なくまた稲妻を落とした。


 空中を飛んでいた犬たちが次々と地に墜ちる。


 だが、すぐにまた新しい犬が地上から飛び立ち、攻撃を弛めない。


 ルナを守るためにだけズデンカは全力を出していた。


「ペルッツさま」


 意を決してバルトルシャイティスが言った。


「どうされました?」


 ルナは肩で息をしながら言った。


「小生に考えがございます」


 と言って懐から、虹色に輝く小さな珠を幾つか取り出した。


「それはなんだ?」


 犬の首を押し潰して血を浴びながらズデンカは訊いた。


「小生のような興行で暮らしている人間は動物を自分たちで捕獲することがあるのです。探検隊に依頼すればもっとお金が掛かりますからね。これはちょっとした目眩ましです。全部炸裂させたら、どんな動物もしばしは動けなくなるはずです。ただ、もちろん人間も動物です。近くでやれば小生たちも動きを封じられことでしょう」


 バルトルシャイティスは芝居がかった口調も捨てて説明した。


 「それなら大丈夫、わたしがなんとかやります」


 ルナが請け負った。


「それでは!」


「待てっ!」


 ズデンカが止めに入る間もなく、バルトルシャイティスは珠を全て犬たちの群へ放り投げた。


 激しい勢いで鮮やかな色彩がバチバチと弾け、みなり、溢れた。


 目の前が白くなりつつあるのをズデンカは堪えた。


 それと時を同じくして、黒い大きなマントが、空からルナたちを覆い隠していた。ズデンカも素早くその中に包まる。


 空を飛んでいた犬たちは皆きりきり舞いを始め、地上の犬たちも顔を伏せて縮こまった。


「ぐええええええ! 眼がぁ!」


 鳴き叫ぶような声が聞こえて来た。コワコフスキのものだ。


 ズデンカは目の眩みも恐れず、外を窺った。


 おそらくはどこかに近くに身を潜めているのだろう。


 まだまだ虹色の光は当たりに溢れている。


「いくよ!」


 ルナがあらん限りの声を絞り出して叫んだ。黒いマントに半ば蔽われて、ズデンカはその手を握り締める。


 街の門が、聳える門が見えてきた。


 もう間もなくだ。

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