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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第三話 姫君を喰う話(5)

 キンスキーはわたくしを連日連夜犯し続けました。わたくしは最初のうち、声を上げて泣き続けましたが、国民全員が敵なのだから誰も助けてくれないと諦めました。七歳の子供でも、それぐらいは理解していたつもりです。



 次第にこうすればキンスキーを悦ばせ、暴力を振るわれることがないというやり方が分かってきました。



 あえぎ声を上げることです。身を震わせ、絶頂を迎えたふりをすることです。必死に演技を覚えました。



「淫乱な雌餓鬼め。とうとう良さが分かったようだな!」



 と罵りながらキンスキーは喜んでいて、わたしの身体を撫で擦っていました。



 目に見えて待遇は良くなっていきました。



 あちこちから美味しいものを仕入れてきて食べさせてくれました。しかし、噛んでも砂のような味がするのです。



 わたくしは心を殺していました。疼く傷口を象の皮のように硬くして守ったのです。



 ロザリンドはわたくしをさらに憎みました。



 いつものように隅に座っている彼女を見下すように眺めたとき、いきなり太腿に噛み付かれたことがありました。



 わたくしは思わずその頬を叩いていました。



 狂犬のようにロザリンドの目は光り、憎悪で煮えたぎっていました。



「お前ばかりいい思いしやがって!」


「……ざまあないね!」



 乱暴な言葉を使わないようにと育てられたわたくしたちでしたが、キンスキーを見習ってかこうして口汚く罵り合うようになっていました。



ロザリンドはわたくしに組み付き、床へ押し倒しました。



「クソッ、クソッ!」



 とわたくしの頬を何度も何度も殴り付けました。



「なんで、こんな目に!」



 わたくしと違って、ロザリンドは宮中の暮らしが好きだったのでしょう。



 宮中が大っ嫌いだったわたくしは、こちらの方でも優越感を覚えました。



 今ならそれがわたくしたち二人を争わせようとしたキンスキーの策略なのだと簡単に分かりますが、当時は難しかったのです。



 他の姉妹はどうしたかお聞きになりたいでしょう?



 みんな、死んでしまったのです。すでに五年ほど時は過ぎていました。キンスキーは地下に連れていき、さんざんいたぶりましたが興味がなくなると食事も与えず、何もない部屋に放置するのです。餓死する者がたくさん出て来ました。



 仮に死んだとしても新聞には短く一行出るだけで、軽んぜられた存在になっていました。



 キンスキーの眼鏡に適ったのはわたくしとロザリンドだけでした。だから辛うじて生かされたのです。



 でもロザリンドも、だんだん衰弱していきました。



 わたくしは満足に食事を与えられているのに、ロザリンドはキンスキーが気に入った時しか与えられなかったのですから。



 わたくしは十四、ロザリンドは十七になっていました。今のわたくしと同じですね。



 その年、姉は逝きました。

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