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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第二十話 ねずみ(8)

「こんな時だけ嗅ぎつけてやって来やがって」


 ズデンカは微苦笑した。


「来て欲しかったんだろ? だってキミ、今すぐやられそうじゃん」


「馬鹿言え」


 そこへ嘴を振り下ろす化鳥。


 二人は散開して左右に分かれた。


 羽ばたきによって風が巻き起こり、広場一面を過ぎった。


「うわぁ、飛ばされるぅ!」


 ルナがふざけた声を上げながらベンチに縋り付いていた。


 そのベンチすらじりじり石畳を削り、痕を残して摺下がっていくほどだ。


「ルナっ!」


 二人は同時に叫んでいた。


 烈風に吹き付けられるルナの前に立ちはだかり、牆壁しょうへきとなった。


「眼を狙え!」 


 ズデンカは大蟻喰に命じた。


「んなことわかってるよ」


 うざったそうに大蟻喰は言い、高く跳ね上がった。


 そのまま鳥の頬に張り付き、羽毛をよじ登る。


 ズデンカも反対側へ飛んだ。


 化鳥は耳を劈く大声を上げた。二人が並の人間だったら鼓膜は破けていただろう。


 しかし、そうではなかったので。


 艶々した羽毛を渡って、瞼へ、眼球へ忍び寄れた。


 掛け声をせずとも、二人の身体は同時に動いていた。


 ズデンカは元より相手がそんなことをするとは思えなかったし、自分もする気はない。にも関わらず思いは通じ合っていた。


「キエエエエエエ!」


 両目を潰された大鴉は頭を大きく振り回し、ズデンカと大蟻喰を落とそうとする。


 だが、二人は離れない。


――意地でも離れてやるものか。


 化鳥は頭を地面にぶつけ始めた。


 血が吹き乱れ、石畳が流星のように砕けて飛翔する。


 頭蓋を破壊され、脳髄を露出させた大鴉は嘴を地面に叩き付けたまま動かなくなった。


「やったか」


 ひらりと下りた二人は、遺骸を眺めやった。


「まだだよ」


 傍に来ていたルナが呟いた。


 と、見る間に。


 鳥の頭部に出来ていた裂傷が塞がり、それを蔽ってなおフサフサと黒い毛が生え立つ。


「クソッ」


 ズデンカは毒突いた。


「もうわたしたちの手には負えないのかもね」


 ルナは悲しそうに言った。


 化鳥とズデンカと大蟻喰はにらみ合った。


 そうこうしている間にも、大鴉の腹に吸い付けられた人々は潰れ、血を流して死んでいく。


――なんとかしねえと。


 横へ視線をやるといつにないルナの真剣な眼差しに気付き、自分と同じことを思っているに違いないとズデンカは信じた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 息せき切って何者かがこちらに向かってきた。


 長く伸びた顎髭の老人、斑禿げのドブネズミ――タルチュフとバルタザールだ。


 英雄広場の門を潜って必死に駆けてくる。


 老体に鞭打って走るその姿は一(コマ)の漫画で、ズデンカはなぜか心が安らいだ。


「お前らじゃあいつの相手にはならんぞ」


 ズデンカは半ば呆れて言った。


「いえっ! 私とてただ千年を生きてきたわけではありません!」


 ルナたちの元へ走りよったバルタザールは息を吐いて叫んだ。 


「私には、これがあります」


 バルタザールは尻尾をピンと立て、そこから緑色の稲妻を放った。 


 轟音を立てて、雷撃は化鳥の頭部を貫いた。


「幾ら頭を狙っても無駄だぞ」


 驚きながらもズデンカは言った。


「狙っているのはそこではありません!」


 そう強く言い返すバルタザール。


 稲妻は頭を貫き通して体内の奥深くにまで突き入った。

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