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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第二十話 ねずみ(5)

 ドアを細めに開けて、まだら禿のドブネズミが姿を現した。ご大層に黒縁の眼鏡まで掛けている。


「どなたですか?」


「わたし、タルチュフさんの友達で、ルナ・ペルッツと申します」


 ルナは勢い込んで言った。


「ああ、あの有名な」


 バルタザールは得心したようだった。


「あなたが『鼠流合一説』にまつわる著作を色々お持ちだと伺いましてやって参りました」


「はい。よろしいですよ」


 バルタザールは素直に頷いた。


「それじゃ早速」


 とルナは部屋の中へ上がり込んだ。


 本棚に突進する。


「どれどれー? ふむふむ、興味深い。これは……ぶつぶつ」


 思考がだだ漏れだ。


――本に向き合うといつもそうだな。


 ズデンカは苦笑しながら見守った。


 どうもルナは『鐘楼の悪魔』よりも、『鼠流合一説』に纏わる本に興味があるらしい。側卓に積み上げて、素早く頁を捲っていく。


 ルナは速読を修得している。本人によれば写真のように頭に頁が焼き付くとか。


 ズデンカは眉唾だったが、ルナはたまにあの出来事は、どう言う本のどう言う頁に載っていたかをスラスラと言えることがある。


 言葉に違わぬだけの能力を持っていると見える。


 ズデンカは読んでも片っ端から忘れるので、少しだけ羨ましかった。


 だがルナは自分には知識がないとも漏らしていた。この世の中は膨大な出来事で充ち満ちていて、とてもすべてを理解など出来る訳がないらしい。


「わたしはまだ見ぬ綺譚おはなしが知りたいんだよ」


 だから、いつも旅をしているのだと。


 ズデンカはそんなことをぼんやりと思いながらルナを見ていたが、もう片方の眼でバルタザールを追っていた。


 尻尾を振りながら本の隙間から顔を出したり引っ込めたりしている。読書しているのかそうでないのか、定かではない。


――こっちを監視してやがるのか。


 何か怪しげな動きを見せたときは即座に殺すと心に決めていた。街中で事件を起こすのはあまり好ましいことではないが、ルナの命が危ないなら仕方がない。


 ルナが悠長に本ばかり読んでいるのでズデンカも、イライラしたあまり『鐘楼の悪魔』を探すことにした。


 割合すぐに見つかった。


 部屋の一番隅にある棚の中に金文字の禍々しい本は収まっていた。


 ルナに確認を取らずに動くことにしばし躊躇したが、思いきって手にとって見た。


 すると。


 金文字の本はズデンカの手を滑り、中へ浮き上がった。 


 くるりと一回転すれば、鴉に姿を変えた。 勢いよく羽ばたき、開かれた窓から飛び立つ。


「クソッ!」


伸ばした手の爪が擦る。


 ズデンカも追いつけぬほど、その動きは速かったのだ。


「やっぱりわたしの推測通りだった。あれは撒き餌だよ」


 いつの間にかルナが傍に立っていた。


「知ってたのか?」


 ズデンカは少し怒りを込めてルナを見やった。


「先に言っただろ? クリスティーネ・ボリバルと遭遇するかも知れないってさ」


「それだけじゃわからねえよ。ハウザーは何を考えてる」


「さあ。推測でしかないけど。シエラフィータ族を誘い込もうとしてるんじゃないかな。最近、エリファス・リトヴァク師が誘拐された事件は知ってるね?」


「ああ」


 半年ばかり前、オルランドのシエラフィータ教会から導師リトヴァクが失踪したのだ。ちょっとした事件として報道されたが、その後音沙汰はなかった。


「あの事件もおそらくは」


 ルナはモノクルの奥で右眼を細めた。


「どうすりゃいいんだ」


 ズデンカは苛立った。


「逃げても無駄だろうね。どうも『鐘楼の悪魔』はハウザーの眼にもなってるようだし」


「眼だと?」

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