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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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201/1235

第二十話 ねずみ(1)

――ランドルフィ王国中部パヴェーゼ付近 


「『鼠流合一説』」


 綺譚収集者アンソロジストルナ・ペルッツは呟いた。


「そりゅう……何じゃそりゃ?」


 メイド兼従者兼馭者の吸血鬼ヴルダラクズデンカは首を傾げた。ますます細くなる道に注意を傾けながら。


――こっちを選んだのは失敗だったな。


「カルメンが言ってたんだよ」


「ああ、あの鼠か」


「カルメンの故郷はロルカでね。故郷の滅びた原因になったのが『鼠流合一説』っていう思想書? だとかで」


 カルメンは先日パピーニでルナと友達になった野ネズミの名前だ。ズデンカはあまり話さなかったが良いやつだったと記憶している。


ろくでもなさそうな本だな」


「ぜひ一読してみたい!」


 ルナは声を張り上げた。


「どこで手に入れるんだ?」


「やっぱり図書館だろう。パヴェーゼは大都市だ。大きな本もあるだろう」


 二人はブッツァーティを経由して南下した。帰りは反対側に位置するパヴェーゼを通って戻ろうという訳だ。ランドルフィの中でも一二をあらそう都市であり、ズデンカも注意を払う必要があると考えていた。


――最近出っくわしてねえが、カスパー・ハウザーとはまた絶対戦うことになるだろうな。


 ルナを付け狙っている元スワスティカの親衛部長ハウザーの手下が、どこに潜んでいないとも限らないのだ。


「あまり乗り気にはなれんな」


「君が乗り気じゃなくともわたしは行くよ。さあ! さあ!」


 ルナが声を張り上げた。


「うるせえ」


 ズデンカは馬の動きに細心の注意を払った。


 大きな道に入ると、パヴェーゼはじきに見えてきた。


 幾つもの馬車が併走している。中には自動車の姿もあった。


 建物に次ぐ建物が道の両側に犇めいていた。赤煉瓦づくりの粗末なものがほとんどだ。そこから馬車の往来を眺めている連中の姿もあった。


「こんな大都会に住んでるんだから、別に旅人は珍しくないだろう」


「人間観察ってやつだよ」


 ルナは笑った。


「そんなことして何が楽しいんだ?」


「さあ、わたしもよくわからない。でもね、死ぬまでの時間の暇潰しに人は何をしてもいいだろう?」


「理解できない考えだな」


「まあ、君は人ではないからね」


 ルナからそう言われてズデンカはちょっとばかりイライラした。


「ルナさま、ルナさまでは」


 沿道に立った老人が大きく手を振った。


 後続がいないことを注意深く確認しながら、ズデンカは馬車を静かに止めた。


「これはこれは、タルチュフさん。お久しぶりですね!」


 ルナにタルチュフと呼ばれた長く顎髭を垂らした老人は微笑んだ。


「誰だよ」


 ズデンカはタルチュフを睨んだ。どうにも胡乱な印象を受けたからだ。


 もっとも、ルナにしたところで初見の人間には胡散臭い印象を与えるだろう。


――あたしもかなり警戒してたからな。


 ズデンカも当初はルナを信用しなかった。どうも似た臭いが、このタルチュフという老人からはする。


「タルチュフさんは書籍商だよ。まあわれわれの職業にとっちゃ双子のようなものさ。もう十年ぐらい前からの付き合いでね」


「初めまして。あなたがズデンカさんですか。『第十綺譚集』の献辞はもちろん拝見しておりますよ」


 タルチュフは顎髭を扱きながらズデンカに挨拶した。


「別にあたしは献辞なんか……」


 ズデンカは顔を背けた。


「ふふふふふ」


 ルナはにんまりと笑っている。

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