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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十九話 墓を愛した少年(6)

 はい。俺は兄ヴィットーリオとあまり仲が良くありません。


 だから、あいつの前では話したくないんですよ。


 普段から会話を交わすことも少ないです。家の中でも気まずい時間を過ごしています。


 学校にいる時が幸せに感じられるぐらいです。


 なぜか、ですか?


 特別な理由はありません。


 昔はそうでもなかったんですけどね。


 兄は堅物です。面白くない。いつも俺を子供扱いしてきます。もう十三なのに、あれこれ指図してくるんです。


 腹が立ってなりませんよ。


 こんな街など住んでいたくないって俺はいつも兄に言っています。


 実際それは本心からです。早く成人して手に職をつけて、こんな街からは抜け出してしまいたい。


 ここにいても何も起こりっこないのに、ヴィットーリオは出ていこうとはしません。大人であればすぐに荷物をまとめて出ていけるはずのに。


 野心もなければ、生活を変えようとする努力すらしない。


 情けない人間です。


 こういう大人になってしまってはいけないと思っています。


 兄と暮らし続けるのは苦痛です。本来ならすぐにでも街を出たいと思っていたんですが。


 そうもいかないことが起こりまして。


 これは、あなた方がお望みの話と関わりますよ。


 俺がこの墓地に足を運ぶようになったのは去年の夏からです。


 最初は特に理由はなかったんです。ふと足が向いたというか、自然にでした。


 友達はあまり、いませんから、遊ぼうと自分から言えません。独りで時間を過ごせる場所を求めていたんでしょう。


 墓碑を読んだりして時間を潰していましたが、読みとれない物も多く、あまり興味が持てませんでした。


 ウッチェロの鳴く声が聞こえました。


 どこで鳴いているのか、気になって探し始めました。


 御影石の墓――つまり今目の前にあるこの墓に止まって鳥は鳴いていました。


 燕でした。夏に空を飛んでいるのはたまに見かけますが、人前に姿を見せない鳥ですが、時を止められたように翼を安め、垂直に立っていました。


 俺は不思議と心惹かれ、燕を撫でようとしました。


 すると魔術が解けたように燕は羽ばたいて視界から消えてしまいました。


「……」


 勢い俺は墓石を見つめることになりました。


 何か心の中ではっと閃いたものはありました。でも、それは何だかよくわかりませんでした。


 何か書かれているようですが、汚れてしまっていてよくわかりません。


 俺は家に引き返しました。雑巾を取りに行ったのです。石を何度も何度も拭いて綺麗にするために。


 汚れを落とすと次第に、

 

 フランチェスカ


 の文字が見えます。


 続いて、現れた文字を読みました。そして、そこに刻み込まれた没年を。


 百年も前の人でした。


 ぼんやりしたまま石を眺めながら、その時は家に帰りました。


 しかし、夜になって夢を見たのです。


 俺はあの墓地に独りで立っていました。


 すると、俺よりすこし上ぐらいの、白いドレスを着た女がふんわりと羽毛のように近付いて来たのです。燕の羽毛のように。


 帽子も真っ白で、潮風で鍔が揺れ動いています。


 女を見た途端、俺の心臓は高鳴っていました。


 フランチェスカだ。


 そう思ったのです。

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