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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十八話 予言(6)

 狭い道具屋の中は大混雑となって、立つ隙間すら簡単には見つからない状態だった。


 ルナは自室に引き込んで、ぴったり鍵を掛けていた。


「おトイレに下りていくのも大変だ。ここでしちゃおうかな」


「止めとけ!」


 ルナならしかねないため、ズデンカは声を張り上げた。だからと言って、階下でマラリアでも拾ったらまずいとは考えながら。


「冗談だよ。まったくズデンカは心配性だなあ」


 ノックする音がした。


「はいはいー!」


 ルナは扉を開け、愛想良く笑って出迎えた。ズデンカの呆れ顔を背後に隠して。 


 ジェルソミーナだった。


「ようやく皆さん帰って頂けて、やっと安心できます。次から次へと来られるのでほんと大変でした。お金まで下さるんですが、断っても押し付けられて」


 手には札束が握られていた。


「うわあ! これはすごい。何も言わず受け取っちゃいましょう」


 ルナは間の抜けた声を上げて感嘆した。


 ジェルソミーナは何も言わず、懐へ札束をしまった。


「ところで、ジェルソミーナさん。あなたは何か夢があるんですか?」


 ルナは聞いた。


「え? いきなりどうしたのですか」


「いえ、将来何かになりたいって思いは誰もが持っているので、気になったんですよ」


 ズデンカは怪訝な顔でルナを見た。


「そうですね……できるならこんな辺鄙なところは飛び出してブッツァーティで歌手でもしたいかなあって思ってるんです。父からそんな商売は下衆のやることだって反対されてて、留学させて貰えないので」


 ジェルソミーナは顔を伏せ赤らめた。


「歌手! それは良いですね。今度歌をお聴かせくださいよ」


「いえ、まだお見せ出来る段階では……」


「客商売なんですから、まず聞かせなきゃ話が始まりませんよ。歌は唄えませんがお金は頂きます。みたいな訳にはいかないでしょう?」


 ルナは笑顔ながらに厳しいことを言った。


「いやいや」


 ジェルソミーナは畏まった。


「おいルナ!」


 ズデンカは注意した。


「君はわたしの……うぷっ」


 その口をズデンカはしばらく押さえた。


「ぜいぜい」


 荒く息をするルナ。


「すまんな、またこいつが」


「いえいえ」


 ジェルソミーナは手を振った。


「そうだ。ベンヴェヌートさんが未来を見通せるんだったら、ぜひ聞いてみてはいかがでしょう?」


 ルナは提案した。


「それもいいかもしれませんね」


「じゃあ、早速。お客も帰ったってことですし」


 ルナは歩き出した。


「すまんな。全く何考えてるかわからんやつで」


 ズデンカも後を追った。


「おう、お客人!」


 自身の予言が受け入れられたベンヴェヌートはすっかりご満悦の体だった。


 客間のソファに腰掛け、足を組んで出迎える。


 ズデンカはいつルナは『鐘楼の悪魔』に言及するのか、冷や冷や見守っていた。


「今まで寒い地方ばかり旅していたので、暖かいこちらの季候がほんと居心地良くてつい何週間も居着いてしまっていました」


 予想を裏切って、ルナはのほほんとしていた。


「そうじゃろう、そうじゃろう。いくらでもいるがよいわ、がはははっ!」


「お言葉に甘えたいところなのですが、近いうちに旅立とうと思っていましてね。もちろん、一つやることを済ませた後で」


「やることだと? 何をだ」

 ベンヴェヌートは不思議がって訊いた。


「本を見せて頂きたいのですよ、今すぐ出来るはずでしょう? 『鐘楼の悪魔』というタイトルの」


 ルナは言った。


 だが、ズデンカは驚いた。その相手はベンヴェヌートではなかったのだから。


 ルナはジェルソミーナの方へ向き直っていた。

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