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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十七話 幸せな偽善者(4)

 伯母ビアンカは私の人生のお荷物でした。


 両親を早くに亡くし、独身だった伯母の元で育てられた私の少年時代は、悲惨なものとなりました。


 ビアンカは独身で子供の育て方など知らなかったのです。ひどく妙な人間でした。


 殴りなどはしません。むしろ、わかりやすいそんな行動があればよかったのですよ。離れられますから。


 ただ、妙な微笑みを浮かべて私を見つめてくるのです。


 その顔が実に不自然と申しましょうか。絵に描いた顔は年取ってからのものですが、若くすれば寸分違わない微笑みなのです。


 話しもしません。落ち付かない時間を送ることになりました。


 私はビアンカから食べ物を与えられた経験がありません。


 自分で食料庫を漁らなければなりませんでした。見かねた身内の者から与えられたこともあります。


 ビアンカは普通なら子供に対してやるべきことを何もしない人間でした。


 その癖、来客がある時はにこやかに微笑んで相づちをうつものですから、身内以外の者はビアンカを穏やかな良い人間だと思っていました。


 私からすればたまったものではありません。とは言え、物心付かぬうちはそれを当然のことのように受け止めていました。


 栄養失調で手足はガリガリです。学校に行くようになる頃にはベッドで横になっていることが増えました。


 見かねた叔父が私を引き取り、そこで食べ物が与えられて元気になりました。


 でも、すぐにビアンカが訪ねてきて、


「ペッピーノ(私の名前はジョゼッペでその愛称です)を返してください。養育権はこちらにあるのです」


 とあの笑顔で言うのです。叔父は躊躇っていましたが裁判をちらつかされて、仕方なく私は伯母の元へ返されることになりました。


 戻ってからはまたあの微笑みとのご対面です。


 たくさん食べることの楽しさを知った私は流石にそこからは自分で探すことにしましたが。


 食料庫だけでは足りず、市場で物乞いのような真似もしていました。すっかり有名になり、皆が食べ物を恵んでくれました。


「伯母さん」


 私はビアンカにいつも問いかけていました。


「皆、母さんに料理を作って貰っているよ。なんで伯母さんはしてくれないの?」 


 ある時思いきって問い詰めてみました。


「作れないの。私は」


 伯母はそう言ってまたあの微笑みを浮かべるのです。


 私はもう怖くなっていました。


 十五ぐらいになると、伯母の元を離れる決意を固めました。場所も告げずに旅立ち、とある港で船の荷運び人足として住み込みで働き始めたのです。


 さすがにビアンカは追ってきませんでした。


 そのまま何年かは無事に過ぎ、人足を辞めてブッツァーティに戻ってきました。もう伯母と関わりたくはなかったので、かなり離れた場所に下宿を取ることにしたのです。


 私は大きな画廊で仕事をするようになっていました。絵など興味がなかったのですが、友人が見付けてきてくれたのです。定職に就けるならと喜んで飛びつきましたね。


 これが、今に繋がっているわけです。


 ビアンカはなんと私の画廊まで押しかけてきたんですよ。


 あの微笑みを浮かべて。


「ペッピーノ、また私と暮らさないの?」


 私は身震いしてかぶりを振りました。


「嫌だ。あなたとあのような暮らしをするのは堪えられない」


 伯母は微笑みを浮かべるのです。


「わたし最近ね、皆を救うために活動してるのよ」


 そして妙なことを話し始めました。

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