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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十七話 幸せな偽善者(2)

「それは後だな。取り敢えず今どうするかだ」


 ズデンカは重々しく言った。


「お酒でも飲もうか」


「またそれか」


「それ以外に何すればいいの?」


 ルナはきょとんとした。


「芸術を楽しむとか……」


「ぷっ!」


 ルナは吹き出した。


「前、蝶の展覧会へ自分から行きたいって言ってたじゃねえかよ!」


 ズデンカは焦った。


「まあそうだよね。そんな楽しみっ! 方もっ! 悪くっ! ないよねっ!」


 ルナは言いながら笑っていた。


 ズデンカは気分を害した。


「なら勝手に飲みにいけば良いさ」


「いや、ちょうど良い画廊が出来たって話を思い出した。行ってみよう!」


 ルナは方向を変えて歩き出した。


 相伴するズデンカは道を変更させたことを少し罪深く思った。


「別に良いんだぜ。飲みにでも」


「わたしが見たくなったからいいのさ」


 ルナは進んでいった。


 歓楽街とは逆の場所にある通りは人の数も少なく、冬のこととて日照時間も長くはないため、夜に程近い暗さを感じられた。


「いい気分にゃなれないな」


 寒さを感じないズデンカと言えど、寂しい風景を見るのはあまり好きではない。


「まあそんなものだよ。ここからもうちょっと南にくだれば、急に暖かくなるものさ」


「あたしは行ったことがない」 


「あ! そうだったよね。君も気分転換になるだろうさ」


「まあどこにいようが、あたしは構わんが」


 お前と一緒なら、のセリフを飲み込んで言うズデンカ。


「この町はぱっと見たら分かる通り成金が多いから、美術品は過剰に集めようとする傾向が強いんだ」


 新築された建物でひときわ大きめの美術館の窓を指差しながらルナは言った。


「美術なんて集めて何が楽しいんだ。人間はたかだか数十年で死ぬのにな」


 とは言うものの、ズデンカもある程度は美術品の知識はある。審美眼も持っているつもりだ。


 わからないのは、美しいものをそこまで大事にする人間の心性だ。金を払ってまで買うようなものかと思う。


「金は、食い物と水だけに使えば良い。後はなんもいらん」


「だとしたらわたしも商売上がったりだよ。本を読む人がいなくなればね」


「本だって他に面白いものがないから読んでいるだけだろ。映像とかもっと楽しいものが世に溢れている時代になったら、いずれ読まれなくなる」


「あたた、痛いところを指摘してくるね。前ヴィルヌーヴ荘で近いことを話した人がいた。どう考えたって本は映像に負ける。でも、わたしとしたらね、本の方が面白いこともあるよ、って言うしかないさ」


 ルナは笑った。


「なにが面白いんだ」


「それぐらい自分で考えなよ。君だって本を読んで感心することはあるだろう」


「ある」


「どうして面白いんだと思う?」


「そうだな。文字だけなのに頭の中で場景が浮かぶからだ」


「だろ? 映像ならはっきりしたものをみんなに見せられるけど、文字を読んで頭の中に浮かぶ場景ってのは人それぞれだ。だから人それぞれに読む価値があるのさ」


「雲を掴むような話だな。映像だって見たやつ全員が同じものを見てるって証明できんのか?」


 とは答えながら、ルナといつものノリで問答出来ていることが嬉しいズデンカだった。


「それ以上は哲学的な問いになっちゃうなあ。まあわたしから言いたいのは本だって後々の時代まで残るだろう、ってことだよ。読者は減ったとしてもね」


「そうかねえ」


 ズデンカは納得出来なかった。

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