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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十六話 不在の騎士(10)

「でも、不思議ですよね」


 横から頭を突っ込んで読んでいたオドラデクが呟いた。


「何がだ?」


「あの屍体見たでしょ。血まみれだったけど、ちゃんと元の姿を取り戻していましたよね」


「あ。そう言えば!」


 フランツはポンと手を打った。


「そう言えばじゃないですよ。あはははは! 鈍いなあ」


 笑うオドラデク。


「バラバラになった身体を、テュルリュパンは取り戻したというのか。ならどうやって」


「その答えを知るために、あなたは読むんでしょ?」


 オドラデクはウインクした。


 フランツは読むのを再開した。

 


 テュルリュパン。


 それが俺の新しい名前だった。


 親衛部に新設された『火葬人』五名のうちに選ばれたのだ。


 誇らしいことだと思った。


 首府ミュノーナの冷えた執務室、そこに俺たち五人は集まっていた。


 どのような奴らがいたか、ざっくりと書いて置こう。


 席次一、クリスティーネ・ボリバル。


 中背で細身の落ち着いた女だった。黒い白鳥か何かの羽根で作られた扇がトレードマークで、いつも口元を隠していた。


 何を考えてるか分からない性格をしていた。組んで仕事をやったことは幾らでもあったが、後には苦い思いが残るのだ。その残虐さに。俺もずいぶん惨虐なことをしたが、こいつはそれに輪を掛けていた。


 俺は殺しを楽しむが、こいつは破壊を楽しむ。その違いだ。


 席次二が俺だ。記憶力は良い方じゃないにも関わらず、ボリバルの記憶ばかり残っているのは、「席次」が『火葬人』に選ばれた順番を示していたからじゃないかと思う。俺にとっては拭い去りたい記憶だが。


 席次三、ゴットフリート・フォン・グルムバッハ。


 大男だが、俺よりは低かった。だが、俺は姿が見えないのだから、比べようがない。道化服を纏ったときだけ身長の差がわかった。


 いい奴だった。俺のなりにも関わらずよくして貰ったものだ。飯をいつも奢ってくれた。


 起こした事件についても知っているが、飽くまで仕事と割り切ってやっていたんだと思う。俺や他の奴のように殺しに楽しみを覚えてはいなかったはずだ。


 席次四、ブラバンツィオ・マンチーノ。侏儒こびとだ。ランドルフィの出身者で、無口でいつもぶつぶつと呟いていた。俺も社交的な方じゃないが、こいつとは話をしなかった記憶がある。


 とても暗いやつだが、殺したやつのの目玉を好んで舐めたがるという趣味を隠していた。それだけで千人近くは殺めたんじゃないかと思う。


 席次五、ビビッシェ・ベーハイム。関わった時期こそ短かったが、一番印象に残っている。まだ十代そこそこの少女だった。


 どこからやってきたかはわからないが、負過ぎな雰囲気をしていた。


 赤毛で痩せていた。瞳の色も燃えるようだった。


 初めて会ったときのことをよく覚えている。執務室を出て直ぐの廊下で擦れ違ったのだ。


 見ない顔だと思った。


 俺は透明なはずなのに(その時は何も着ていなかった)、あいつは俺の顔を見て話してきたのだ。


「何か用?」


 俺は戸惑った。まず、道化師の服を着ていないと、人から気付かれることなどなかったからだ。


「俺がいることがわかるのか?」


 俺は聞いた。


「ああ。君は身体を失っているね」


 この少女はなんでそんなことを知っているのか。俺は不思議な思いがしていた。


「そうだ。俺はいつか元の姿に戻りたいんだ」


俺は口を突くまま話し出してしまっていた。自分の過去を。


 ビビッシェと初めて組んだのはスワスティカの北部でシエラフィータ族を匿っていると噂のある村を根絶やしにしたときだった。

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