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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十五話 光と影(3)

 周りの景色がどんどん左右へ飛び去っていく。


 意外にカルメンは機敏だ。四つ足でごつごつした道を駆けた。


「うわっ!」


 思わず振り落とされてしまいそうになって、ルナはカルメンの背中にすがりついた。


――こんなに早いと目立ってしまうかも知れない。


 ルナは考えた。ハウザーの一味には凄腕の射撃手スナイパーがいることは間違いないのだ。


 そんなに目立ってしまったら殺されるかも知れない。今は身を挺して守ってくれるズデンカがいないのだ。ルナは思わず身を縮めた。


「そういやぁ、どこいくのぉ?」


 走りながらほがらかにカルメンは訊いてきた。


「パピーニの街」


――ズデンカは絶対にそこにいるはずだ。


「そこならよく行くよぉ! お買い物とかにぃ!」


グングン速度は上がっていく。ルナは必死にカルメンに抱き付いていた。


 鋭い銃声が轟く。


「ひゃっ、銃だぁ!」


 カルメンはびっくりしていた。だが走るのは止めない。


「たぶん、わたしたちを狙っているんだ。出来る限り逃げて!」


 ルナは焦りながら言った。


「わかったぁよ」


 連発銃なのか、次から次へ銃弾は繰り出される。高速で移動する獲物へ過たず乱れ撃ちにされる。


 すぐ隣の木に弾が命中して、枝が地面に落ちた。


――まるで魔弾の射手だな。


 ルナは心の中で、カルメンと自分を追おう硬いバリアのようなものを強く思い描いた。


――『幻解』だ!


 ルナはパイプの煙なしでも幻想を出現させることが可能だ。今は騎乗(鼠乗とでも言おうか)なので両手が動かせないため仕方なくそうしたのだ。


――すくなくともわたしを直ぐ殺そうとはしてこないはずだ。でも、カルメンは違うから!


 実際弾は、カルメンの頭を撃ち抜こうとした。しかし、その眼前で硬い膜が跳ね返した。弾は隣の樹の幹を貫いた。


「これ、すごぉい! どうやったのぉ?」


「まあ……ちょっとね」


 話すと唇を噛みそうだったので、ルナは囁くように言った。


「うーん」


 ルナと会話が出来ないのがもどかしそうな様子でカルメンは走り続けた。


 銃撃は森を抜けてしまえばやがておさまった。向こうは人目に気付かれたくないのだろう。街に近づくと、道行く人の姿も見えてきて、猛烈な勢いで走るカルメンをびっくりしたように眺めていた。


「獣人は珍しいからねぇ。買い物の時一苦労だぁよぉ」


 カルメンはしみじみと語った。


 ルナも答えたかったが相変わらず噛みそうなスピードなので黙っておいた。


「ついたよぉ!」


 街の広場に辿りつくとカルメンは止まった。


 先日街の大聖堂にハウザーが砲発して、崩れた穹窿を見物するために野次馬が集まっていた。


「早速、宿に行かなくちゃ!」


 まだまだふらつきを覚えながらルナはカルメンの背中から降りた。


――なんか久しぶりに戻ってきた気がする。


 集まった街の人たちは嫌そうな顔で見てきた。


 ただでさえルナの名前と姿は良く知られているのだ。珍しい獣人と連れ立っていればなおさらだろう。 


――ズデンカ。


 走り出そうとしてルナはよろめいた。


「いけるぅ?」


 カルメンが近付いてきた。


「大丈夫!」


 二人で手分けして、何とか宿屋を探し当てた。方向音痴なルナは地図も持たずに一時間ぐらいよろよろと彷徨ったのだ。


 パピーニの街は家と家の間隔がとても狭く、細い通りを縦に並んで歩かなければならない。


「このあたりも来たことあるよぉ」


 カルメンは相変わらず暢気だった。

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