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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十四話 影と光(6)

「わからない」


 少年は無表情のまま言った。


――このまま放置してやろうか。


 ズデンカは激怒したが、一度受け追った以上、最後までやらなければ気が済まない。



「じゃあ聞くがお前の周りにはどんな人間がいた? たとえば家族だ」



「父は早くに没し、兄が家督を継いだ。母がいた」



「家にいたのはそれで全部か?」


「召使い女たちがいた。いるのは当たり前だが」


 その言い草にズデンカはカチンときた。


「なんだよ、あたしだって召使いっていやあ召使いだ。いるのが当然のように思いやがって」


 だがすぐに後悔した。目の前に居るのは千年以上前の人間だからだ。まあズデンカも古いといえば古いが。


 案の定ルキウスはぼんやりとした顔を浮かべるだけだった。


「まあ、いい。家にいる者の中に犯人はいないのか?」


「笑止。女に殺される私ではない」


 そうは言いながら顔には少しも笑みが浮かんでいない。


 ズデンカはますます腹を立てたが、ここは聞き役に徹することにした。


「お前が殺される前後、何か変わったことは起こらなかった?」


「普段通り皇帝の元へ呼び出されただけだ。そして闘技場に連れていかれた」


「家族の様子は?」


「嘆き悲しんでいた」


 少年は冷淡に話を続けた。


「はあ」


――さっぱりわからない。


 どうも、この少年は人の感情を読みとる能力が薄いらしい。古代の男はみんなそうだったのか、本人の特性によるものか。


「お前は兄のことだけは信じるんだな」


「兄は私の名誉を守るために闘ってくれた。恩義を感じずにいられようか」


 胸に手を置き、少年は身を乗り出した。感情がここまではっきり表れるのは初めてだった。


「……」


 ズデンカは図書館で調べ直すことに決めた。


――こいつと話すよりも効率が良さそうだ。

 

 

 さらに幾冊もの本をズデンカは見ていった。


 ルキウスの話は役立たないと思っていたが、得られた情報からスキピオの日記を見返せば、新しい発見があった。


「十一月二十二日 セウェルス邸侍女一同鏖殺される。皇帝の下知なり」


 「鏖殺」とは皆殺しのことだ。ルキウスの言う「召使い」の女たちのことだろうか。


――うーむ、何かありそうだが見えてこねえな。


 おそらく秘密を握っていたので侍女たちは殺されたのだろう。


 ズデンカは悩んだ。


 なんで自分が悩まないのかと思いつつも悩んだ。他に史料はないかと、司書に尋ねてみたら、


「ああ、カドモス帝の侍臣の日記なら……」


「それを早く渡せ!」


 途中、小声になったが勢いよくズデンカは言った。


 さっそく持ってこられた本は巻物をそのまま写真撮影した、いわゆる『影印本』だった。


 首を捻りながら二百年分の知識を動員して読解を試みる。


「十月十三日、セウェルス殿、参られる。御懇談」


――やっぱなんかセウェルスは臭うな。


 少年が思っているほど清廉潔白な人物なのか疑問だ。


「十月十四日。セウェルス入獄」


 翌日申合わせたかのようにセウェルスが捕らえれている。


 だが、それから三日後、


「十月十七日 セウェルスと御懇談」


 とあり、カドモス帝とセウェルスが親しく話しをしたのは明白なのだ。


 入獄というのもルキウスを殺すための下準備だったのかも知れない。


 だが、なんでそんな混み入ったことをしたのかよく分からない。


 手掛かりが見つからないものかと日付を遡って読み進めた。

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