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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十四話 影と光(5)

 今度は比較的近年の研究書も引っ繰り返してみる。


 結果として非常に役立った。さまざまな当時の文献を渉猟して書かれており、当時の闘技場には物見櫓が取り付けられていたことが分かった。今はかけらも痕跡が見当たらないが。


 となれば頭上高くから見通しよくルキウスを槍で狙うことも出来ただろう。猟をやっている腕前ならなおさらだ。


――もうセウェルスが犯人だと決まったようなもんじゃねえか!


 ズデンカはストーリーを組み立てた。


 あらましはこうだ。カドモス帝は獄中に閉じ込められたセウェルスに交換条件を提示した。


 晴れの席で弟を槍で殺せば命を助けてやると。


 セウェルスは野心ある政治家だった。事実スキピオの日記を見てもその後出世を重ねただろうことはうかがえる。


 ならば、セウェルスが犯人で間違いないだろう。


――一件落着だわな。


 そう心の中で呟きはしたものの、まだ納得出来ていない自分がいた。


――帝に辱められた弟を罵ったことが事実だとしたら、節を曲げて弟を殺すことなどするだろうか?


 スキピオの簡潔な記録からではセウェルスがどう言う考えでその後の人生を送ったのかよく分からなかったが、必ずしも帝に唯々諾々と従ったとも限らない。


 そのスキピオも二年後に没し、セウェルスの足どりを追える史料てがかりはなくなる。


 ――皇帝が殺させた、と見る方が正しくはないか?


 皇帝はセウェルスを有能だと信じていた。出来るなら命を助けたい。


 だが、ネックになるルキウスを闘技場で暴れ牛に殺させようとした。だが、勝ってしまった。仕方がないので見張りに下知して槍で貫かせた。


 よくある話だ。そう考えた方が早い気もする。


 だが反論もできる。弟の不審な死をセウェルスがそのまま何も調べずに受け入れただろうか? 帝に逆意を抱いても不思議ではない。


 あるいはそもそも、セウェルスの名前が一致しただけで、あの闘技場にいる少年の兄とは別の人間かも知れない可能性すら殺せていない。


――なんも定まってねぇ!


 あらためて歴史を調べることの難しさに直面したズデンカだった。


――まあ、あいつにもう一回色々聞いてみるか。


 時計を見た。昼前だ。図書館の閉館までまだまだある。


 ズデンカは素早く本をしまっていき、闘技場へと引き返した。

 

 

 戻ってきたズデンカを少年は見つめた。


「まず聞くが、お前の名前はルキウスか?」


 少年は何も言わず、まばたきもしなかった。


「そうだ」


 やや時間を置いて答えた。


「やはりか。お前のことを本で調べた。セウェルスの名前が出ていたぞ」


「ほんとうか」


 とは答えたものの、ルキウスは心を動かされた様子もなかった。


「お前を殺したのは兄ではないのか?」


 まずそこを聞いてみたかった。


「ありえない。兄は牢獄にいたのだから」


 さきほどとおなじことを繰り返すだけだった。


「だが、皇帝なら兄をそこからこっそり出して、お前を殺させることが出来る。全ての権限を握ってるんだからな」


「兄はそのようなことはしない」


 怒ってはいないようだったが、執拗に言い募るその様子にセウェルスへの強い信頼がうかがわれた。


「じゃあ、皇帝がお前を殺したのか」


「わからない」


 ルキウスはきっぱりと答えた。


「誰が殺したんだよ!」


 ズデンカは焦れて叫んだ。

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