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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百二十話 眼球譚(4)

「ひ・み・つ! 簡単に教えちゃったらつまらないよ。わたしはこの町で楽しみたいんだ。もちろん綺譚おはなしを集めたいよ。でも、ここは面白い町だから君の楽しんで貰おうと思ったんだ。まず、それが何よりも大事なんだよ」


 ルナは幾重にも念を押す。


 ズデンカはなぜかむずがゆく感じた。いつも――東洋思想で言う唯我独尊のような状態のルナが今日はやたらとズデンカに喜んで貰いたがっている。


 今までなかったことだ。


 いや、あったのかもしれないがズデンカが無視をしていたのだろう。


――二人の距離が近づいたのか。


 ズデンカはさらに妙なことを考える自分に気づいた。


 まったく別の存在と思っていた、信じていたルナが突如として近づいてきた。


 向こうから。


――ありえない。


 理性的にはそう感じる。


 だがもう一方でこうも感じる。


――これこそあたしが求めていたものだ。


 ルナが自分から求めてくれる。普段は素っ気ないのに。


 妙なときだけ自分を頼りにしてくれるのに名前すらろくに呼んでくれない。


 でも、それが向こうから近づいてきてくれるなんて。


 嬉しかった。


 素直に嬉しかった。


「じゃああたしを楽しませてくれよ。いつでも待ってるぞ」


「ああ、その人を探そう!」


 ルナはまた歩き出した。


「おいおい、こいつを何とかしてくれ」


 そう言うフランツは無理矢理ハロスに肩を組まれていた。


 ハロスは実力ではメアリーを凌駕する。


 それをよくわかっているものの嫉妬深いメアリーはじっと暗い視線で二人を睨んでいた。


「まあ良いじゃねえかよ。少しぐらいは一緒に見て回ろうぜ。俺が案内してやるよ」


 ハロスは本当に節操ないというか先日はズデンカズデンカばかり言っていたのに最近ではフランツばかり相手にしている。


 聖母の里クライストを出たぐらいからちょいちょい絡んできていたがここに来て激しくなっている。


「お前も知りたいんじゃねえか? バタイユの町で何が起こったのか? もしお前みたいな坊主にゃ言えないことだったらどうする? え?」


 耳元でささやきかけている。聞こえないようにしているがズデンカの聴力ならば丸わかりだ。


「そんなことないだろ。あのルナが……」


「さあわからんぜ。あの人間だってそこそこお励みになるのかも知れねえじゃねえか。え? そうだろ。ペロッ」


「ひっ」


 今度はフランツの頬を舐めていた。


 ズデンカには気が知れない。


 男でも女でも相手にする――いつのまにかいなくなった自称反救世主の大蟻喰もそういうところがあったが、あちらは――ハロスと比べればよっぽど慎ましい。この言葉を大蟻喰に使う日が来るなどズデンカは思っていなかったが。


と、こちらに気を取られている隙にルナはすたすたと歩み去って行ってしまう。


 ズデンカは追いかけた。


 もっともズデンカの足ならこの程度なんと言うこともない。


 結果として後方勢から大きく引き離される形となった。


「面白いんだよ。前は君がいなかったから、今回はぜひ会わせたいね」


ルナは息せき切って言った。


「だが、どこを探すんだ」


「聞き込みさ。有名人だから知ってる人もいるだろう」


 ルナが綺譚以外でここまで熱心になるのは珍しい。

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