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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十三話  調高矣洋絃一曲(8)

 「ぐえええええっ!」


 ギタルラの頭はガルシアの喉を突き破って背中から突き出たんだぁ。


 頭の中で、ラサロの死に際の吐息や、家族が逃げまどう声が聞こえて来たよぉ。


 力が自然と籠もったんだぁ。奥へ奥へと、ギタルラを突き出したんだぁよ。


 ガルシアは声も出なかったぁよ。地面に転がり、あたしを睨み付けていたぁ。


 息がヒューヒューと開いた傷口から漏れる。


――言葉にしたいが、出来ないんだろぉ?


――ならぁ、あたしが言ってやるよぉ。


 って、思った。


「復讐だぁ、これは復讐だぁよ」


 ガルシアはやっと意味を理解したようだった。


 手足を痙攣させ、血を含んだ泡を吹いてこっちを見つめたまま、だんだん表情が消えていった。


 首が、がくりと垂れたぁよ。


 死んだんだぁ。


 すこし悲しそうな顔をしていたんだぁよ。


 もっと苦しめてやればよかったって思いはしたけど、余裕なんてなかったからねぇ。


 復讐はあっさり成し遂げられたってわけさぁ。


 あたしはガルシアの遺骸からギタルラを抜いた。弦が二本折れてしまっていたけどぉ、完全に壊れてしまったぁわけじゃぁなかったよぉ。


 あたしは何も考えずで曲を奏でたんだぁ。


 不思議と良い音色が広がったよぉ。弦が足りないのにねぇ。


 まるで、ラサロの霊が喜んでいるかのようだったんだぁよ。


 あたしも朗らかに笑いたい気分になったけど、横たわるガルシアの屍を見てると落ち着かなくなったぁよ。


 逃げなきゃ、ダメだぁ。


 あたしは走った。ギタルラを抱えてぇ。


 形見の品を失くすわけにゃあいかなかったぁからねぇ。


 休みもしなかったから、夜が明ける頃にはもうジョサの村を抜け出ていたぁよ。


 それから色々大変だったぁよ。親戚を頼って、最南端の村ペソアまで逃げ延びて、そこで詳しく話を聴いたんだよぉ。


 ジョサは全滅した。カヤネズミ連中が蜂起して、村を破壊したのさぁ。


 色々あったようだけどねぇ。連中だって長くは天下を取ってらんなかったぁよ。ご大層な共同体を破壊するなんて思想じゃあ、長く続けられる訳がないよねぇ。


 結局諸侯の一人、ペドロ男爵に領土接収されることになってしまったらしいよぉ。


 カヤネズミたちは危険すぎるってことで追放処分を受けたんだってさぁ。


 身内で争って、関係ない人間に暮らす場所すら奪われるなんてぇ、滑稽だよねぇ。


 だから、あたしの生まれた村はぁ、もうどこにもないんだよぉ。


 寂しい気もするけどぉ、せいせいするよぉ。


 もう、ロルカにゃあ戻る気なんてぇないからねぇ。


 故郷がある限り、遠く離れれば、そこに縛られるんだぁよ。思い出して切なくなっちゃっうのさぁ。


 でもぉ、跡形もなくなってしまえばぁ、懐かしむことはないんだぁ。


 せいせいした気持ちになれるんだよぉ。


 お陰か今まで生きてこられたぁよ。


 村を離れて色んな国を転々としてぇ。


 ギタルラを奏でられる獣人は珍しいからねぇ。もちろん、捕まえられそうになったこともあったぁさ。でも、何とかお金を稼いで、食うに困らないだけの身分にはなることができたんだぁよ。


 それに洞窟暮らしじゃ、家を借りる必要はないからねぇ。土地の持ち主にゃあ許可取ってないけどぉ。


 ルナさんもあたしと同じでしょぉ? お一人で旅をしてるってことはぁね。


 なら、もしかしたらぁ友達になれるかも知れないねぇ。

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