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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十三話  調高矣洋絃一曲(4)

 ある日のことだった。アカネズミのガルシアがラサロのところにやってきたんだぁ。


 あたしたちはヒメネズミだった。アカネズミとは仲が悪いんだけどガルシアは兄の腹心で、何かあると情報を伝えに来てくれていたんだぁ。


「カヤネズミの連中が村会議所の破壊を目論んでいてな」 


 ドングリを囓りながらガルシアは言ったよぉ。


 カヤネズミは身なりこそ獣人にしちゃあ小さかったけど、その群れは村の中でも一つの派閥を作っていた。団結が凄まじくてさぁ。


 確か『鼠流合一説』だっけ? どうでも良いんだけど、小難しい理論を信じていて、ネズミは共同体を作ってはいけない、根無し草の群れに戻るべきだって主張をしててぇ。影響を受けているネズミも多かったんだよ。


 村会議を破壊しようと企んでいたんだよ。


 うん、過激派だぁねぇ。


 村自体、まだ出来て五十年も経っていなかったから、そう言う意見が主流だったんだよ。パブロたちが中心になって村を作ったんだぁ。


 アカネズミもヒメネズミも仲は悪いっちゃあ悪いけど、せっかく村長を決めて合議制でやってるところにそれを壊されちゃたまったもんじゃないからねぇ。


「一体どうすりゃいいんだろうなあ」


 ガルシアは困り顔だった。


「俺が何とか収めよう」


 ラサロはやっぱり男らしかった。


「やってくれるか!」


 ガルシアも思わず立ち上がるほどだった。


 とは言え、戦争を起こしてはいけない。多くの死人が出たら結局村全体が潰れてしまうことになるからねぇ。


 ラサロは飽くまで一人で立ち向かうつもりだったんだよぉ。


 カヤネズミは夜、村会議所の周りに押し寄せてきたよぉ。草の切れを松明代わりに燃やしながらねぇ。


 ラサロとガルシアは二人だけで、大勢を相手にしたんだ。


 って言ってもあたしが見たわけじゃないからどんな様子だったかは知らないよぉ。


 ただ、ガルシアが洞窟の中へ滑り降りてきて、悲痛な声で叫んだところから覚えているのさ。


「大変だ、ラサロが!」


 あたしはいの一番で地上へ走り上がった。


 蝋燭に灯る光しか、あたり照らす者はなかったけど。すぐに分かったんだぁ。


 部屋のカーペットの上にはラサロが横たわっていたのさ。全身が血に塗れていたよぉ。


「カヤネズミのやつら、全く話を聞こうともしやがらなかった! ラサロを皆で囲んで……」


 傍目にはラサロはもう息がないように思えたさぁ。


 でもねぇ、真っ先に来たあたしは気付いたんだよぉ。


 細く静かにラサロが息をしていることを。


 あたしは思わず顔を寄せたねぇ。


「ガル……シア」


 何か伝えようとしてるのかなって最初は思ったよ。


 だけど。


「に……やられた……」


 そこまで言って、ラサロは息を引き取ったったんだぁ。


 背筋が凍った、ね。


 何しろガルシアはちょこまか動き回って洞窟へ降りたり上がったりして家族にこのことを伝えまくってる。


 他の家族がぞろぞろ寄ってきていたんだよぉ。


 立ち上がって部屋の隅に行ってしまったよ。


 兄の死を悲しむ暇なんてありゃしない。


 怖くて怖くてたまらなかった。


 どうやってラサロを殺したのさぁ?


 あたしはそれが知りたくて仕方なくなった。


 表情を読みとられたらまずい。


 ガルシアに掛かったらあたしの首をねじり上げるなんて簡単だろうぉ?


 その後でどこかへ消えたって囁かれるんだよ。


 いやだいやだ。


 あたしは感情を殺して、ガルシアに向き直ることにした。

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