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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十三話  調高矣洋絃一曲(3)

 あたしはロルカも大分奥まったところにある、ジョサっていう村で生まれたよ。南の端っこで海に面しているとこ。


 そのへんには獣人が多く暮らしていてねぇ。幾つもの独立した小村が存在してたんだぁ。うちの一つさぁ。


 ジョサはあたしと同じ顔のネズミ族が集まっている村だったよ。でも、ネズミ同士で喧嘩が起こってね。


 考えてみれば馬鹿らしいよぉ。毛の色の違いだったり尻尾の形の違いとかで争うんだからぁ。


 でも、もっともらしい理由を皆くっつけてねぇ。古い本からテキトーな理論を探したりだとか、みんなの意見の総意だとか、正当化は何度も行われてたねぇ。


 いちいち覚えてらんないよぉ。どうでもいいよねえ?


 でも、村の連中は熱心で熱心で。


 思えば滅んじゃうきっかけになったのかも知れないねぇ。


 あたしは大家族の一員として暮らしてたよ。ここみたいな洞窟を改造したところさ。


 生活のほとんどはそこで送ってた。でも地上に建物を作って、お客人が来た時はそこでもてなすようにしてた。


 父さんのパブロは凄く年取ってたから、年長の兄さんラサロが家庭を支えていたね。あたしとは二十幾つも離れていた。


 村では一番のお金持ちと言っても良かったかなあ。


 あっ、別に自慢してるわけじゃないよ。でも貧乏な村だったからね。


 あたしが物心付いた頃にゃラサロは村長の秘書をやっていて村会議にも中心になって発言するほどの実力者になっていたよ。村のみんなに羨まれてたかなぁ。


 パブロはもうお爺ちゃんさ。安楽椅子に腰掛けて日中ぼおっとしてるだけだった。

 

 ラサロは偉ぶらず、皆と対等に接した。兄弟姉妹のあたしらもあんなにたくさんいたのに一人一人ちゃんと相手してくれたんだ。


 普通、子供相手なんて頭をぽんぽん撫でてあやしてやるみたいな感じじゃなぁい? でもラサロはぜんぜんちがくて、あたしの目をしっかりと見てはなしてくれた。


 向こうもあたしみたいに黒くて丸っこい瞳だけどぉ。


 子供の頃はよく分かってないもんだからさぁ。


 それが尊いことだなんて思いもしなかったよ。失ってみて初めて分かるもんだぁね。


「お前はちゃんとお前らしく生きたら良いよ」


 そう言ってくれたんで、あたしは、


「楽器が欲しい」


 と答えた。別に特別これを演奏してみたいとか思ってたわけじゃない。何となくの考えだったんだ。


 でも、村の広場で楽団が演奏してるのを見たら、羨ましくって。でもみんなとても上手くってとてもじゃないけど出来ないなって思ってた。 


「何が欲しいんだ?」


 ラサロは優しく聞いたよ。


 あたしは悩んで、


「ギタルラ」


 って口走ったんだよ。


「そうか」


 ラサロはそれだけ言って背中を向け、歩き去っていった。


 まさかその時は買ってくれるなんて思ってもみなかったさ。


 でも、何日か経って、


「ほら」


 と紙にくるまれたギタルラを手渡された時は、もう喜びで泣きそうだったぁよ。


 あたしはすぐ弦を弾いたよぉ。でも、ろくな音を出すことが出来なかったんだぁ。


 そりゃ、今まで弾いてみたいなってだけで触ったことすらなかったんだから当然だよねぇ。


 上手く弾けるように、毎日広場へ出かけていって演奏するネズミたちの姿を横目で見ながら真似した。


 ラサロに聞いて貰おうと思ってたんだ。こんな綺麗な音色が出せるようになったよって、自慢しながら。


 でも、それは叶わなかったんだよぉ。

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