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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第十三話  調高矣洋絃一曲(2)

 「今度は笑ったぁ。変なのぉ」


 カルメンは首を傾げていた。そのぬいぐるみみたいな姿に思わずルナは心が緩んだ。


 やっぱり、ネズミは怖かったが。


 カルメンは黒いボタンみたいな眼を光らせ長い尻尾を引きずって近付いてきた。


 ルナの全てが興味津々といった感じだ。


地上うえで倒れてるのみつけたんだよぉ」


 カルメンは肉球の付いた手で上を差した。


「え……君が、助けてくれたのかい」


 ルナは驚いた。


「うん。血を流してたからぁ。着換えさせたかったんだけど。許可も取らずに悪いし、ここには合う服もなくてぇ」


 カルメンは鼻を鳴らしながら言った。


――そうか。この生き物のお陰で自分は助かったのか。もし、気付いて貰えなかったら今頃死んでいたかも知れない。


 そう考えると、辛うじて感謝の念を抱くことが出来た。


「あ……ありがとう」


 ぎこちなく顔を強ばらせながらルナは言った。


「まだ、疲れてない」


「う……ん。身体のあちこちが痛くて」


「そうだなぁ。そこ坐って」


 と、カルメンは部屋の隅に置かれていた籐椅子を指差した。先にそこまで歩いていって埃を払う。


 ルナは言われた通りにした。


 カルメンはルナのマントを脱がし、コートやシャツを脱がせた。


――なんか気恥ずかしいな。


 ルナは顔を赤くした。


 ネズミは正直好きではないが、こんなに親切にしてくれるものを無碍むげに扱うことは出来ない。


「ひっ」


 突然声を上げた。痛かったのではなく、冷たかったからだ。


 身体の痛むところに、カルメンが何かを塗りつけたらしい。


 だが、ものの数秒も経たずに不思議と痛みが収まっていった。


「何を塗ったの?」 


 手足をぐるぐる動かしながらルナは訊いた。


「草の葉だよ。あたしの故郷では良く知られてるものさね。ここでも生えてるなんてねぇ」


 カルメンは飽くまで穏やかで、その顔を見つめるだけでルナは落ち着いてきた。


「どこから来たの?」


「ロルカからだよぉ」


 ロルカ諸侯連合。


――エスメラルダと同じだ。


 ルナはかつての恋人を思い出した。確かに少しばかり言葉の訛りも似ているものがある。


――ネズミだけど。


 ルナは懐かしくなった。


「知り合いがいたんだ。わたしも何度か言ったことはあるよ」 


 ルナはぼかして言った。


「そうなんだぁ。すれちがってたかもねぇ」


「多分ないよ。君の姿はすぐに目立つから!」


 ルナは思わず笑っていた。


「そうだねえ……」


 と言いながらカルメンは懐かしげに視線を落として、


「仲間とはぐれちゃってね」


「え、何かあったの?」


「うん、ほんと色々あったね」


「そうだ!」


 ルナはいきなり顔を輝かせた。


「君の綺譚おはなしを聞かせてよ!」


「おは……なし」


 ルナはコートを手繰り寄せて、古ぼけた手帳と鴉の羽ペンを取り出した。


「そうだよ。わたしの名前はルナ・ペルッツ。世界各地を旅して、綺譚おはなしを集めて回ってるんだ。君が経験した興味深い出来事を聞かせて!」


「いっぱいあるよぉ。話しきれないぐらいかなぁ」


 そう言うとギターを取り出し、弾き始めた。


「さっきも思ったけどギター上手いんだね!」


「あたしらんところでは『ギタルラ』って呼んでるよぉ」


 音色は瞬く間に部屋を満たした。カルメンに巧みに情熱的で早い曲を奏でた。


 唄うように己の物語を話し始めた。

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