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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百八話 氷の城(11)

 空を見るといつの間にか『運命の卵』は消えていた。


 きっとカミーユとともにいなくなったのだろう。


 光自体去っているのだから気にしていなかったが、メアリーやフランツが失明する恐れはなくなったのだ。


「バルトロメウスもいない。戻るよ」


 大蟻喰は言った。


 確かにそうだ。キミコとジナイーダもついてきていたがバルトロメウスはいつの間にか消えていた。


「お前はルナの面倒を見てくれ。あたしが行く」


 ズデンカは強調した。


「そうだね。そうだよね?」


 大蟻喰は迷っていた。


 バルトロメウスとルナ。どちらかを選ばなければならないとしたら、どちらを選ぶのだろう。


「ほんとならあたしもここにいたいんだ。だが今はお前に強いて頼んでいる。バルトロメウスも無事に連れ出すから、ルナを見ていてくれ」


 ズデンカは言った。


 大蟻喰に頼みごとをするのはこれが何度目かだったが、案外聞き分けがいいことを

知っていた。


「まあ、わかったよ」


 やはり今回も素直に同意してくれた。


 ズデンカは要塞のなかに入った。


 奥へ進むとすぐにヴォルフら生き残った将兵たちが出てきた。


「ご無事でしたか」


ヴォルフは丁寧に訊く。軍服は血で汚れてはいたが負傷はなく、


「ああ、連れを探しに引き返してきた。お前らは戻るのか?」


「いえ、私はこの要塞を預かる身です。おめおめ逃げ帰っては申し訳が立ちません」


 軍人はあくまでも軍人だ。


 氷で覆われた要塞でも務めは果たさなければならないということだろう。


「そうか。じゃあかってにしろ。あたしは感知せん」


 協力を得てオドラデクたちを探そうと思いもしなかった。


 階段を駆け上がる。いつもより何倍も嗅覚を働かせて。だが限界はある。ズデンカは血の臭い意外には鈍感なのだ。


 だが希望もある。オドラデクは元より、ファキイルもバルトロメウスも出血はしていないのだ。


 この三人では一番死ぬ可能性が高いのはバルトロメウスだったが、もしそうだとすれば凍死だろう。


 今は昼だ。


 夜になれば虎に変身するので毛皮があるが、今は素肌で凍えなければならない。


 姿がばれないように厚手の服を被ってきてはいるが、それでも長時間は無理だ。


 優先順位で言えばバルトロメウスのほうが早かった。


 ところがだ。


 ゆっさゆっさ。もっふもっふ。


 元の姿に戻った犬狼神ファキイルがこちらに向かって進んでくる。


 心なしかいつもより多めに毛が増量されているような気がする。


「どうした? 何をしている?」


 ズデンカは安心した。しかし、驚きながら訊いた。


「温めている」


 相変わらず言葉足らずだ。


「だから何を温めてるんだ?」


「バルトロメウス」


「やあ」


 バルトロメウスがファキイルの腹部の毛叢から顔を見せた。


 張り付いていたのだろう。


「なぜそんなとこに?」


「暖かいからね。頼んだんだ。幸い毛皮には慣れているからね。アレルギーもないみたいだ」 


バルトロメウスは落ち着いていた。


「……まあ無事ならそれでいいが……オドラデクはどこ行きやがった?」


 ズデンカは言った。

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