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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百八話 氷の城(10)

「はやく決めろ!」


 ズデンカは声を張り上げた。


「お前の親父なら、こんな時どうする? そう考えて決めろ!」


 ズデンカはキミコがかつて父親のことを話していたのを思い出した。詳しくは知らないが、キミコに短刀を手渡したという亡父ならば決断も早いだろう。


 突如、キミコの表情は静かな、落ち着いたものに変わった。


 覚悟を、決したのだ。


「願いを一つお伝えします――この人をどこか遠いところにやって! できるだけ、遠い、離れたところへ」


 キミコはカミーユを指さしながらビシリと言った。


「わかった」


 ジンは頷いた。


 すると、いきなりカミーユは消えていた。跡形もなく。


 まるで嘘のようだった。


 しかし、氷で閉ざされた要塞が元に戻るわけもなく。


「ルナ! ルナ! 起きろ!」


 皆の安否を確認する暇すらないズデンカはすぐにルナの眠っているベッドに近づいた。


「うーんむにゃむにゃあああああああ」


 ルナは苦しげに寝返りを打つ。


「冷え込んでる。目を覚まさないと死ぬぞ」


「えっ、死ぬ、えっえっ!」


 ルナがいきなりびっくりしてがばと跳ね起きた。


「何があったの? 何が起こったの? 一体ここは……ああ、そうかシュトローブルか。要塞に来たんだったよね」


「いい気なもんだ。カミーユがお前をさらおうと近くまで来てたんだぞ! キミコのおかげでなんとか収まったが……」


 ジンが自分を指さしていたがズデンカは無視した。


「カミーユが! しかも、ぶるるるるるるる! 寒い!」


 ルナは毛布を被って震え始めた。


「すぐにこの城を出る。起きろ」


 ズデンカは無理にルナを起こして立ち上がらせた。


「相変わらずその人間に執着してるな」


 ハロスが笑った。


 ズデンカはこちらにも答えなかった。


「ズデ公、ルナを貸せ!」


 いつの間にか追いついて着ていた大蟻喰がルナの片側を担いだ。


「お前らも顔が青いぞ。とにかく下を目指そう。外に出たらあたしは戻ってヴォルフと合流する」


 ズデンカは言った。


「仕切らないでくれますか」


 確かに顔の青いメアリーは冷たく言った。


「口答えできるようならまだ大丈夫だな」


 ズデンカは歩き出した。


 ルナを担ぐのは慣れている。


 楽勝だ。


 廊下を伝いおりて城門の外まで一直線に出る。


 妖精たちの姿も消えていた。カミーユに付きしたがって逃げたのだろうか。


 ただ氷漬けになった兵士たちの死骸が確かに襲撃があったということを示していた。


「さすがに少しめまいがしてきた」


 実際フランツは倒れそうだった。


 だがルナを担いでいるズデンカは何もしてやれない。


 ズデンカが視線を向けると、メアリーは察知したのかフランツを隠すように支えた。


 外に出ると草の上にフランツは横になってしまった。


 もう、冬なので外となかでの寒暖差はそこまで激しくはない。


「ふぁー。やっぱりこんな要塞、長居は出来なかったんだ。アデーレには悪いけど旅を続けるのがわたしの運命なんだよ」


 ルナはあくびをしながら言った。


 結局、その言葉は正しいのだろう。ルナはどこまでも旅に生き、そして旅に死ぬのだ。


「そういえばオドラデクはどこに行ったんだ。お前ら追いかけていっただろ?」


 ズデンカは訊いた。


「見失いました。どちらにせよあの生き物? ナマモノ? は死ぬことはないのですからいつか戻ってくるでしょう」


 メアリーは冷たかった。前はあそこまでニコラスの救援を唱えていたのにえらい変わりようだ。


「そうもいかんだろ。ヴォルフのついでにオドラデクも連れてくる。あとファキイルもいないぞ!」


 ズデンカは言った。


 オドラデクには世話になっている。嫌われてるとは言え、無視する訳にはいかなかったのだ。

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