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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百八話 氷の城(4)

「好き勝手させるか!」


 ズデンカはカミーユに近づいて羽交い締めにしようとした。


 ところが羊の骨の姿をした妖精ヴェサリウスがその前に立ちふさがる。


 姿が見えないと思ったが天井に隠れていたようだ。


 ズデンカは自分の動体視力でも接近を感じ取れなかったことに焦りを感じた。


「そうですか、そうですか。ズデンカさんはご老人が大切なんですねー。それならまあ、いっかあ。私はルナさんを探します!」


 そしてカミーユは勢いよく跳躍した。


――しまった。


 ズデンカが気づいたときには遅かった。


 天井に巨大な穴が開かれていたのだ。屋には螺旋状の階段が形成されており、奥まで続いていた。


 そこからぶら下がっているのは『大工』だという妖精のハケス・バラオウ。


 階段へとカミーユが駆け上がっていくと見る間に穴はふさがり、ハケス・バラオウノ姿も消えてしまった。

 

 カミーユの司令室襲撃は壮大なブラフだったのだ。


 本当はルナのいる部屋へ行くのがカミーユの目的だった。ズデンカの注意を引きつけておいて、隙を見てルナの元へ行こうというのだ。


 おそらく他の妖精を使ってルナの様子を探索させていたのだろう。


 この地下室から直線上に進めば、すぐルナの部屋にたどり着いてしまう。


「お前ら、ついてこい!」


 ズデンカはヴェサリウスをつかんで力強く投げつけると、何も説明せずに地下室を走り出た。ヴォルフに対して、挨拶もせずに。


 そんな暇はなかった。


 すまないとは思った。だがズデンカにとってルナ以上に大きな存在は他にはない。


「おい、どうした?」


 ハロスのほうはすぐに着いてきた。大蟻喰は遅れている。残してきたヴェサリウスと格闘しているのだろうか。


「ルナを守りに行く」


「あの人間か。本当にズデンカにとって大事な存在なんだな」


 ハロスは本当に不思議そうに言った。


「……」


 ズデンカは答えなかった。答える時間がもったいなく感じた。


――ルナ。ルナ。ルナ。


 心の中で何度も何度も呼びかける。


 カミーユの手中に落ちてしまっているかもしれない。


 カミーユは決してルナを殺さない。


 だがさらう気ではいるだろう。


 ズデンカはかつてルナと引き離されたことがある。


 とても、辛い体験だった。


 今ならはっきりそう言える。


 それがまた繰り返されるのかと思うと耐えられない。


 ズデンカは階段をもの凄い速度で駆け上がった。


 たどり着くまでに時間はかからなかった。ルナの眠っている部屋の鉄扉は閉まったままだった。


 ズデンカはノックもせずに鉄扉を蹴り倒した。


「ルナ!」


 床に巨大な穴が開いている。


 カミーユ・ボレルがにやにや笑いながらジナイーダとキミコを見ていた。


 二人はベッドで眠るルナの前に立ちふさがっている。


「さて、どのように調理しましょうか?」


「絶対にこの向こうには行かせません!」


 キミコは震えながら言った。


「あなた、弱いでしょ。わかってますよ。すぐにでも握りつぶせるほどもろい存在です」


「カミーユ!」


 ズデンカは怒鳴った。


「ズデンカさんが動くならすぐこの二人の喉頸を引き裂きますよ? それでもいいんですね?」


 カミーユはナイフ片手に言った。

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