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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百八話 氷の城(3)

「うーん、難しそうだな。だが!」


 ハロスは天井を駆け抜けて、ディナの後ろ側に回った。


 短い説明でズデンカの意図するところをすべて行う手腕は大したものだ。


 ディナの動きはあまり早くない。振り向くのにも時間がかかった。


 ハロスは後ろからディナを容易に押さえつけ、床へ向かって一直線に落下した。


「さあ、早く固まれ、よ!」


 ズデンカは距離を保ってディナに取り込まれないように細心の注意を払った。


 だが、その心配はなかった。


 ディナの全身はまたたくまに固まったのだ。


「ふう」


 ディナが完全に動かなくなったことを確認した後でズデンカは氷を殴りつけた。


 たちまち氷は砕け散る。


「倒した、のか」


 おそらくそうではないだろう。


 カミーユは勝つのが目的ではなく、ズデンカとハロスを一時的に足止めをするためにどうでも良い捨て駒としてディナをここに残していっただけだ。


 ディナを後からいくらでも再生する方法を温存しているのだろう。


 実際もたもたしているうちに遥か遠くに遠くに行ってしまい、もう姿が見えなくなっている。


 ズデンカは勢いよく後を追った。


 ハロスも遅れてついてくる。


 大蟻喰もすっかり押し黙り不機嫌そうだったが、後ろからやってきていた。


「ズデンカ、待ってくれえ!」


「どこに行きやがったんだ」


 上か、下か。おそらくは下だろう。


 そして、司令部を狙っている。


――ヴォルフの首を落とそうとしているに違いない。


 カミーユでもルナがどの部屋にいるかは把握できていないだろう。


 城兵を捕まえて脅そうにも、ルナの到来と滞在場所を知っているものは少ない。


 それならまず頭からつぶそうというわけだ。


「ヴォルフがやられたらまずい。あたしらも向かうぞ」


 ルナが寝ている部屋は極力避けた。カミーユが何らかの手段で追尾をしている可能性もあるからだ。


 二階に上がり、司令部に舞い戻る。


 やはり想像通り。


 血の匂いがしていた。むせかえるようだ。


 兵士たちの遺骸が、部屋のあちこちに山と積まれている。ここ数分間の戦いで、これだけの人間が死んだのだ。


 だがヴォルフ少将は死んでいなかった。


 書き物机の上に乗って、ヴォルフはサーベルを抜き放ちカミーユのナイフを受け止めていた。


「ご老人、意外と強いですね」


 カミーユは笑った。


「どうやら、まだまだ戦えたようですね」


 ヴォルフは落ち着いた様子で答えた。


――こいつ。ここまで戦えたとは。


 人間とはいえ尋常ではない強さでナイフを飛ばしてくるカミーユを見事に受け止めていた。


 さすが、かつての大戦の英雄で、オルランド軍で少将を任されるだけはある。


 しかし、このままではまずい。実際ヴォルフは机の端の方に押されている。


「カミーユ、止めろ!」


 ズデンカは走った。 


 カミーユはすぐに振り返り、お約束のように聖水を塗りたくったナイフと、刺されば氷漬けになるナイフとを二本投げつけてくる。


ズデンカの腕は片側を聖水のナイフでえぐられ、しばらく修復に時間がかかることになってしまった。


「チッ」


「ズデンカさん、いまはこのご老人と戦わせてくださいよ。たぶんこのお城で一番強い方なんでしょ?」


 カミーユは言った。

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