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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百七話 運命の卵(13)

 カミーユの策略によって分断されたのか。それとも単なる気まぐれか。


 ズデンカはメアリーとフランツを両肩に乗せて急いで階段を降り始めた。


 まず司令室を目指す。


 たくさんの眼を負傷した兵士たちが部屋の入口に横たわるなかを急いで内部に移動した。


「ヴォルフ、お前は大丈夫だったか?」


 ズデンカは訊いた。


「ええ、ここへは光は届きませんから、大丈夫です。ただ逃げてきたものがたくさんおりました。まだ動ける兵士たちには、窓や銃眼の外を見るなと指示を出しております」


 ヴォルフは焦らず冷静に答えた。


「あいつは次の手を打ってくる。卵の光を要塞中にあふれさせるつもりだ。卵の侵入を許してはならねえ」


 ズデンカはそう言いおいてメアリーとフランツを預け、外へと飛び出した。


 ものすごい速度で部屋の扉を破壊し、それを、窓や銃眼に打ち付けていく。うずくまる兵士たちの間を行かねばならなかったからなかなか大変だったが、それでも三十分もかからず多くの穴を封鎖することができた。


ものすごい白い光が要塞の外にまだあふれているようだ。


「やあ」


 大蟻喰がそこに顔を出した。


「君の仲間の吸血鬼、無様にもこの要塞に捕まっているみたいだよ。全身縛られてほんといい気味だった。何度か頭をひっぱたいてやったよ」


「あたしの仲間の吸血鬼?」


 ズデンカは最初それがだれかわからなかった。


「ボクをさんざんコケにしくさってくれた……ああ、思い出すほどに腹が立ってくるよ」


 大蟻喰は顔をゆがめる。


 だがそれでズデンカは誰だかわかった。


 ハロスだ。先日ミュノーナで別れて依頼行方不明だったが、ここにやってきていたのか。


「今手がふさがってるんだ。あいつの手を頼むほかはない。案内してくれ」


「キミは無理だと思うよ。どうも聖水が振りまかれているらしい。入ることは出来ないだろ」


 確かにそうだった。となれば大蟻喰に救出させるしかないがとてもじゃないが言うことを訊くとは思われない。


 なぜならハロスは大蟻喰を一敗地に塗れさせたことがあるからだ。


――仕方ない。ハロスと合流は後にして、今はあたしと大蟻喰こいつだけで何とかするしかなさそうだな。


「おい、お前も手伝え、あの光で目がやられないならな」


「大丈夫さ。何度か眼球を取り替えたけど、この程度じゃ消耗もしていないよ」


 大蟻喰は余裕の表情で答える。


「なら、窓を何か板でふさいでくれ。扉でも構わない。光が要塞のなかに入ってこないようにしてくれればいい」


「なんでキミの言う通りにしないといけないのさ」


 相変わらず大蟻喰は非協力的だ。


「ルナを守るためだ。それなら納得できるだろ」


「わかったよ、あーだるい」


 大蟻喰はのろのろ動き出した。


 ズデンカも急いで動き出した。残る三十分でほとんど窓を封鎖し終わった。光は少しも漏れていない。


 真っ暗なので、無事な兵士たちはカンテラや、ランタン、蝋燭の光を頼りに室内を照らしていた。


――光を奪われた人間は行動力が鈍ってしまう。だが、それにしても『運命の卵』は危険すぎる。あれが放つ光を見ると失明するかもしれないんだ。


 ズデンカは焦った。

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