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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百七話 運命の卵(11)

 一行は階段を駆け上がって要塞の最上階の銃眼へと急いだ。


 そこからなら空中に浮遊する卵を補足できるからだ。


 ズデンカは銃眼から外を覗き、卵が浮遊していることを突き止めた。


「壊してやる」


 ズデンカは銃眼から落下し、卵に飛びついた。


「このっ! このっ!」


 ズデンカは何度も何度も殴る。


 だが、卵の表皮はとても硬かった。


 ひびすら入れることが出来ない。この卵が爆弾で、ズデンカは身体ごと吹き飛ばされても構わないと思っていた。


 戻るのにしばらく時間はかかるかも知れないが、ルナの命が奪われるよりはその方がましだ。


 と、ここで考えを巡らせた。


 カミーユも、ルナを殺そうとは思っていないことにだ。


 だからズデンカの足止めをしてくるに違いない。


――また、引っかかったか。


 だが、ズデンカは卵から離れることもできなかった。


 このまま銃眼に戻ればカミーユはまた何かしてくるに違いない。


――時間がないんだ。


 ズデンカは焦っていた。


 とものすごい光を卵たちは発しはじめた。目の前が白く染まるほどだ。


 吸血鬼であるズデンカは逆にあまりダメージを受けなかったが、人間は皆目をつぶっていた。


 フランツやメアリーたちもだ。


「お前らは下がれ。こいつは何か力を持っている」


 もし、人間の頭を操作するような者だったらどうしたらいい。


 守っている兵士同志が殺し合いになれば、要塞は必然的に陥落する。


 カミーユはその隙に要塞内に忍び込んでルナをかっさらうつもりかも知れない。


 カミーユからすればルナ以外の人間はどうでも良く、他は死に絶えてもいいのだから、そういう手を使ってきてもおかしくはない。


「目がくらむ!」


 さまざまな騒ぎ声が要塞のあちこちから聞こえてきた。


 ズデンカは焦った。卵の数も増えてきている。


 要塞一円がまるで光の滝に飲み込まれたかのようだ。


 さっきからずっと卵を続けて殴っても、何ら変化がない。


 相当の力を出しているのにぴくりともしないとは。


「ズデンカさん、『運命の卵』、楽しんでくれましたか?」


 ぬっとカミーユの笑顔が突き出された。ヴェサリウスに騎乗している。いつの間にかここまでやってきたいたようだ。


「撃て! 撃て!」


 将校の指示により銃撃が始まるが皆卵に目をくらまされてしまい、少しもカミーユに命中しなかった。


「まさかこの卵に兵隊さんたちの頭が操られたらとか思ってません? さすがに私にはそこまでの力はないですよ。一応、妖精さんたちのなかではムッシュ・ドゥ・ラルジャンティエールが似た力を持ってるんですけど、不完全ですからね。この卵はそこまで協力じゃなく、ささやかだけど……見たい人の運命を少しだけ変えちゃうことが出来ます。だから『運命の卵』、なんです」


 カミーユは笑顔で手のうちを明かした。


「メアリー、フランツ、こいつを見るんじゃない!」


「大丈夫ですよ。メアリーも、フランツさんとか言う人も、とっさに目を隠したみたいです。見ちゃったのは兵隊さんだけみたいですよ。よく観察しててください。どういうことが起こるのか」


 カミーユは卵にまたがったまま動けないズデンカの肩をぽんと叩いた。

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