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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百七話 運命の卵(7)

「訊いてきた。あいにくだが、今フランツという人は外出中だ」


 衛兵は戻ってきたが、冷たくはねつけるように答えた。


「クソが、こういうときに限って!」


 ズデンカは叫んだ。


 タイミングが悪すぎる。


「じゃあ、ルナ・ペルッツは起きているか、そちらに問い合わせてくれ」


「二度も三度も見知らぬやつのいうことはきかねえよ」


 衛兵は言った。


 ズデンカはもう何も答えなかった。


 待つしかない。しかし、以外に早く待ち人は来た。


 二十分もなかっただろう。


 フランツ・シュルツと、カンテラを提げたメアリー・ストレイチーの二人がこちらに歩いてきたのだ。


「ズデンカ!」


 フランツは叫んだ。


「なぜ、外になど出ていた?」


 ズデンカは怒鳴った。


「こいつが、見たいものがあると……まあたいしたものじゃなかったんだが……」


「大したこともないのに、探しに行ったのか?」


 ズデンカは腹が立った。


「ええ。私ちゃんは興味があったので。あなたの指図に従うなどと誓った覚えはありませんよ?」


 メアリーが顔を出した。


「……」


 確かにズデンカはメアリーに何の権限もない。まだフランツの方はルナを守ると約束を交わしているので、それを違えたと誹ることは可能だろう。


「とりあえず、中に入れろ。大蟻喰にずっと抱えられてばかりじゃ悪い」


「何で抱えられているんだ? 何かあったのか」


 フランツは心配そうに訊いた。


「カミーユにやられた。力を吸い取られたようだ」


 ズデンカは答えた。


「力を?」


「ああ、あいつの使役するヴェサリウスとか言う妖精だ。骨を突き刺された」


「ヴェサリウス」


 メアリーもさすがにそれには興味が引かれたようだった。


「カミーユは強かった。あたしと大蟻喰が二人がかりでも動きについて行けなかった……」


 ズデンカは言葉を絞り出した。


「まあ、ともかく城内に入ろう」


 フランツは焦りを隠せない表情で衛兵に指示を出した。


 フランツは客人だと上から指示を出されているのか、衛兵たちはすんなりと受け入れた。


 ズデンカは嫌な気もしなかった。


 それよりも何よりもルナに会いたかった。


 大蟻喰に抱えられたまま、要塞の中の冷え冷えとした鋼鉄の部屋を歩いて回った。


「ルナの居るところへ連れていけ」


「うるさいな。自分で歩けよ」


 そうは言ったが大蟻喰はちゃんと部屋の前まで連れて行ってくれた。


 ノックをする。


 バルトロメウスが出てきた。


「ああ君が。ペルッツさんはまだ睡眠中だよ」


 大蟻喰を見て言った。


 なかに入った。


 確かにルナはしっかりベッドで寝ていた。


 だが、ズデンカは起こそうと思わなかった。


 乱暴にズデンカも床の上に放り投げられた。もちろん、ぴくりとも動けない。


 ズデンカは情けなかった。


 戦うことすら出来ず、動けもしない。


「カミーユはやがてここに来るでしょうね」


 メアリーが言った。


「ああ、ルナを攫いに来る」


「ミス・ペルッツのことはどうでも良いのです。カミーユを捕縛して連れ帰れるかどうか、そこが問題です」


 メアリーはあくまで自身の主張を通したいようだった。


 ズデンカはもう反論する気力もなかった。ルナがこんなに側近くにいるのに、触れもしないのだ。

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