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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百七話 運命の卵(6)

「大蟻喰、こいつらを食えないか?」


「食う? どうして食うんだ?」


 大蟻喰は驚愕していた。


「お前も多く屍体を食っている。こいつらも屍体だ。なら取り込めるだろう?」


「そんな……バカな」


 大蟻喰は嫌そうな顔をした。


「お前は悪食だろ? 何でもかんでもいろいろな人間を食ってきた。なら目の前のこいつらだって出来ないはずはない」


 とっさの思いつきだった。本当に可能かどうかすらわからない。


「まあ……出来ないことはない。ボクに喰えない肉はない」


 大蟻喰は皮肉っぽく笑った。


「じゃあ食え」


「頑張ってみるよ」


 大蟻喰は最大限頭部を膨れ上がらせた。


 三人が肩車をしたような高さにまでなっていた。


 そして勢いよく大地にはびこっている『人獣細工』たちへと口を開き、勢いよく吸引を始めた。


 次から次へと人獣細工たちは大蟻喰の体内へと取り込まれる。


 驚くばかりの速度だった。


 今まで目の前を遮蔽していた『人獣細工』たちが次から次へと消えていくさまはそうかいだった。


「やはり、あたしの勘は正しかったな」


 大蟻喰は答えもせず、吸引を続けていった。


 まあ数分はかかっただろうか。霧はまだ濃いが、要塞までの道に敵の影は少しも見えなかった。


 カミーユは部下の妖精を今は配備していないようだ。



「食い終わったらはやく逃げろ。また後ろからやってこられるぞ」


「わかってるよ。こいつらあんまり美味しくないんだ。じゃりじゃりして、なんか変な味がする」


 頭部を元のサイズへと戻していきながら、大蟻喰は口答えした。


「お前はカミーユとの戦いでだいぶ消耗した。あんな奴らでも、回復につながるなら食った方がいい」


 ズデンカは前向きに考えるようにしていた。


「いや、もうだいぶきつい。吐き気がしてきた」


 大蟻喰は嫌そうに答えた。


「進め」


 ズデンカはひたすら命じた。


 要塞への道を走りに走る。


 かつてこのあたりは通ったことがあるから道はわかった。


 ようやく城門の前へとたどり着いた。


「誰だ」


「ルナ・ペルッツの連れだ! 開けてくれ」


 ズデンカは叫んだ。


「ルナ・ペルッツ? 確かに昨日からこの城にいるが……」


 衛兵はいぶかしんだ。


「本人に言えばわかる! 会わせろ!」


 ズデンカはさらに声を荒げた。


「怪しげなものを入れるわけにはいかない」


 衛兵はあくまで、冷たく応じた。


「じゃあ、フランツ・シュルツを呼んでくれ」


 ズデンカは頼んだ。


 フランツが来てくれたらうまく話をつけてくれるだろう。


「フランツ・シュルツ……上に確認を取ってみる」


 衛兵は仲間と交代して城のなかへ戻った。


 ズデンカはいらいらしながら大蟻喰に抱えられたまま待った。


「やれやれ、力で通っちゃってもいい?」


大蟻喰はいらいらしながら言った。


「そうもいくまい。まだ少しだけ待て」


 ズデンカはくぎを刺した。


 実際は大蟻喰に賛成したいのだった。面倒なことばかり言ってくる衛兵を殴り飛ばしてルナのもとへ駆け込みたい。


 だが、そんなことをしようものなら、たちまち危険人物扱いだ。


 城内の全員を的に舞わなければならなくなる。


 それでは時間の無駄だし、カミーユに遣ってこられる危険性はなおさら高まる。


 だから、ズデンカは待つしかないのだった。

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