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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百七話 運命の卵(5)

 大蟻喰に抱えられたまま逃げなければならないのは正直癪だった。


 カミーユはすぐには追ってこない。

 

きっとどこに逃げられても大丈夫だという自信があるのだろう。


「戻らねえと」


ズデンカは声を絞り出しながら言った。


「だから、わかってるよ」


 大蟻喰はいらだって答えた。


 ズデンカだってわかっていた。何もできない自分がたまらなく嫌で、だから大蟻喰をせかすだけでもやっておくべきだと思ってやったのだった。


 だが、それは結局八つ当たりだ。


 これまで動いてばかりだった自分だが、今は動けない。力を思いきり奪われてしまった。過去にも似たことはあったかもしれないが、ここまで見事にすべてを奪われるとは思いもしなかった。


 カミーユはかつてなく強くなっている。


 ズデンカは心なしか人間には絶対に負けないと心のどこかで思い込んでいたが、それは誤りだとよくわかった。


「カミーユには、勝てない」


 ズデンカはつぶやいた。


「何言ってんだよ。あんなやつ……」


 大蟻喰は反論しようとして黙った。冷静になって考えれば自分が挑発に乗る一方だったことがわかってきたのだろう。


「いつのまにかものすごく強くなっていた。あそこまでだとは思いもしかかった」


 こちらの狙いの裏を掻いてきた。


 ここまでの狡猾さをいつの間に身に着けたのだろう。


 ともに旅をしていた時にはそんな風には少しも感じられなかった。


 霧があたりに満ちていた。視界はとても不明瞭だ。


 普段のズデンカならこんな霧は何でもない。だがヴェサリウスに多く力を奪われてしまったためか、上手く見通すことが出来なかった。


――今のあたしは力のない、何も出来ない、無能だ。


 ズデンカは自分を責めた。


「ちょっとズデ公、ぼおっとしてんじゃねえ!」


 大蟻喰が大きく叫んだ。


「ああ」


 ズデンカはその叱責をむしろありがたく感じた。


 今は自分一人だけの世界に沈んでいられるような余裕がない。


 シュトローブル要塞の影こそ遠くの方に見えてきている。しかし一向に近づけているようには思えない。


『人獣細工』は次から次へと迫ってくるからだ。大蟻喰ならば無傷で撃退する事が出来たが、ズデンカを運びながらだと他にはやした手を使いながら進まなければならず、なかなか大変だった。

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