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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百七話 運命の卵(4)

「ズデンカさんの力、一度いただいてみたかったんですよ。ヴェサリウスはね。人から魂を吸い上げることは出来ます。でも、吸血鬼はまだ試したことがなかったんです」 


 ズデンカはもがいたが、とても離れることが出来なかった。


 全身の力が、消えていくのを感じた。もの凄い勢いでエネルギーが奪いとられていく。


「くそっ」


「叫んでも無駄だよ。ズデンカさん。誰もあなたを助けに来ないし。ルナさんだってやってこない。あなたは独りなんだ。いい加減あきらめようよ」


 説き聞かせるように。なだめるように。


 ジムプリチウスはルナから全てを奪うといっていた。カミーユがルナから離れていったこともまた奪われたことになるのだろうか。


 その上、自分が去ればどうなるのだろうとズデンカは考えた。


 ルナは全くのひとりぼっちだ。この世の中に誰も頼りにするものがいなくなる。


 金はあるだろう。しかし、ルナのような人間にとって、金が何になる。


 誰かから母屋ってもらえないと生きられない。弱虫だ。


 ズデンカはよく知っている。


 状況は厳しくなっている。日に日にルナを思いやってくれる人は少なくなっていっているからだ。


 だから絶対に負けてはならないと思っていたし、これからもこれまでもそう思い続けている。


 ズデンカは自分の胴体を指で切り裂き、寸断した。ばらばらになった各部は落下しながらまた一つに戻っていく。


 大蟻喰はともかく、さすがにズデンカがこのようなことをするとは思ってもいなかったのだろう。


 カミーユは炎で燃やそうとする暇がなかったようだ。


 ズデンカは落下していった。元の姿に戻るので精一杯だ。


「ズデ公、お前もやっぱり弱いじゃん」


 大蟻喰は文句をたれて脚部の筋肉を巨大化させ、ズデンカを腕に抱きながら、地に足を付けて着陸した。


 かなり反動は強かったが、足が破壊されることはなかった。


「すまん。自分の力を過信しすぎたようだ」


 ズデンカは素直に謝った。


「謝られてもボクになんも得はないよ」


 大蟻喰はあざ笑うように言った。


「そうだったな」


 ズデンカは賛同するように笑った。


 壁の外へ出れたのだから後は逃げるのみだ。大蟻喰は少し熱が冷めたのか。ズデンカの言うとおり後退することに従った。


――こいつも根はバカじゃない。今の状況がやばいってことぐらいわかるはずだ。


 『人獣細工』が押し寄せてきた。だが、カミーユ本人と比べればなんと言うこともない。ズデンカを抱えながら、背や肩に無数の腕をはやした大蟻喰はそれを軽々と切り払いながら、どんどん先へ進んでいった。


 もう夜が明けていた。長いこと戦い続けていたらしい。


 ズデンカは焦った。


――ルナ!


 何も力が出ない。それなのに心の中はいくら叫んでも叫び足りない。


一刻も早く要塞へと着きたかった。


 だが、道は遠く感じる。

「早く!」


 ズデンカは叫んだ。


「いや、こっちも早く着きたいんだけどさ!」


 大蟻喰は言い訳するように言った。


 実際周りは『人獣細工』でいっぱいだった。いつの間にこんなに増殖したのだろう。おそらくカミーユが戦っている間にだろうが、絶対に合流させたくない意思が伝わってきた。

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