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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百七話 運命の卵(2)

 どうにもしようがない。戦うことに夢中で着々と檻が作られていたことになぞ気づく余裕がなかった。


「おい、カミーユ、こんな戦い、長引かせてどうする? 無駄だ。早くやめにしないか?」


 こうなれば挑発するしかない。どうにかして壁の外へと出たいと思った。


「いくらでも長引いてもいいですよ。戦い続けましょう。この狭い檻の中で」


 カミーユは挑発には乗らなかった。あくまで落ち着いた態度で応じる。


「お前とは本来戦いたくなかったんだが」


「何言ってるんですか?」


 カミーユは容赦なくナイフを飛ばしてきた。ズデンカの肩に突き刺さる。


「もちろん、聖水なんて塗っていませんよ。確実にズデンカさんの足止めできるけど、つまらないじゃん。自分の力でズデンカさんは倒すって私決めてるんですよ」


「お前を倒したくはない。だがルナをどうにかしたいなら……」


 ズデンカはカミーユを睨み据えた。


「そうだよルナさん! 本当はルナさんのところに行かなきゃなんです。でもズデンカさんの相手も楽しいから、相手してあげます。どうしようもない人を殺すのと比べたらズデンカさんと戦うほうがよっぽどましだですよ」


 相変わらず人の命をなんとも思っていないようだ。


 ズデンカはやはりカミーユとは相容れないものだと感じた。


「大蟻喰さんのほうはもう戦う意欲なくなったかな? あなたは多少雑に扱わせてもらうよ」


 カミーユはまた何度もナイフを投げつけた。大蟻喰の腕や肩に次々と命中する。


「お前、調子に乗んなよ。お前みたいなやつが、ルナに関わっていいと思うな!」


 大蟻喰は吠えた。


「関わるも何も一緒に旅していたじゃないですか。あなたとも何度もお会いしていますよ」


「それはお前じゃない。別のカミーユだ」


ズデンカはカミーユを睨みつけた。


「別のって、私は私ですよ。確かにあなた方と旅していた時は別の人格を使っていました。でもそれを作り出したのも私です。元のままだといろいろ支障が出ますからね。結果として大成功でした。何しろルナさんに知り合えたんですから大金星です」


――カミーユは、あのカミーユはこいつとは絶対に違う!


 ズデンカはカミーユが旅先である人の死に涙したことを思い出していた。


 人とのつながりを大切にするカミーユ。


 今目の前にいる、多くの命を殺めてきた殺人鬼とは絶対に違うと断言できる。


 殺人鬼はそのカミーユの人格を押し殺し、閉じ込めている。


――救い出してやらなければ。


 ズデンカはそう考えた。


 だが、どうやって?


 人の心を帰るのはズデンカには不可能だ。ルナは人の記憶を忘れさせたことがある。ひょっとしたらできるかもしれない。


 だが、ルナはそれをしたがらないだろう。


 なぜかはわからないが、そう思ってしまう。


人は変えられるものじゃない。


 変えられるとすれば、それは流れに乗せられた時だ。


 相手が変わっていくのだ。


「ズデンカさん、どうしましたか。もっと大蟻喰さんを疲れさせてあげましょうか。旋回でも万回でも切り刻めば、絶対に値を上げるはずです。しかもそこまで、戦い抜く正確と来ている」


 カミーユは大蟻喰を指さした。

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