第百六話 死人に口なし(18)
フランツは訳がわからなかった。
「お前は邪魔なんかじゃねえよ。大事な仲間だ」
フランツは言った。オドラデクも似たことを言っていた。
メアリーも今となっては大事な仲間だ。
「でも、あなたは本心から私をそう思っていないでしょう」
やっぱり、メアリーは面倒くさい。
明かりに照らされて、霧のなかでも顔だけはくっきりと見える。
「思ってる。どうやって証明したら良いんだ」
「ミス・ペルッツと金輪際縁を切ってください」
「それは無理だ」
フランツは困惑した。
「どうしてです」
「ルナも仲間だからだ」
「好きだからでは? さっきおっしゃいましたよね」
「だが、それ以前に仲間だ。一緒に旅をしたこともある」
「どれだけ過去の幻影にとらわれ続けるんですか」
メアリーは鋭くフランツを見た。
「お前こそ、いつまでカミーユ、カミーユって言ってるんだ?」
メアリーの自分の棚上げぶりにはあきれてしまう。
「それは、私も自分では……そう思ってます。で、でもカミーユとは幼い頃からの付き合いで」
メアリーは少し焦った。
「なら、俺だってそうだ。ルナとは昔から友人だ。だから助けたいと思うし、守りたい。お前のカミーユに対する感情とどう違う」
「……」
返事はなかった。
「結局お前は俺がルナに構うのが許せないだけだろ」
フランツは具体的に言った。
「そうですよ」
メアリーは頬を膨らませた。
フランツは少しだけそれを見てかわいいと思った。
「別に俺もルナと将来を夢見ているわけではない。だが、仲間だ。命が狙われている以上、絶対に守りたい」
「まあ、良いでしょう」
メアリーは持ち上げていたカンテラの光を下ろした。
「わかってくれたな。さあ、お前の幽霊を探そう」
フランツは辺りを見回したが視界は閉ざされていて、わからない。
フランツはつないだ手を離さないまま、メアリーのカンテラに従って動いた。
「本当にいるとして、話もできない相手とどうやって話すのか」
「それはあってから決めましょう」
メアリーはカンテラをあちこちに当てて、何かを探した。
しかし、そんなに簡単に出てくるものではない。
「これだけ霧が深いと故郷が懐かしく思い返されますね」
メアリーは遠い目をした。
「お前の故郷にも一度行ってみたいな。あそこにもスワスティカ残党がいるだろ」
「またそれですか。あなたの定義なら私ちゃんもといストレイチー家だってスワスティカ残党かも知れませんけどね」
「そうなるな。お前らまとめて一網打尽だ」
「ふふふふふ」
メアリーは笑った。
急に朗らかな雰囲気になった。さっきまでとげとげしていたのが嘘のようだ。
「どちらにしろ俺は戦い続けるしかない」
フランツは言った。
「私ちゃんもそうです」
「お前はカミーユ探しが目的だろ」
「次の目標も出来つつあるんです」
メアリーはぽつんと答えた。
「なんだよ、それ」
フランツは怪しんだ。
何をしようというのだろう。よからぬことではないのか?
「教えません。秘密です」
メアリーは口元に指を立てた。
「訊きたくもないがな」
フランツは言い返した。




