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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百六話 死人に口なし(8)

 ハロスはフランツを引き寄せ強く胸に押しつけた。


 もちろん不死者だからだが、その肌はとても冷たい。


 怖気がしたが、しかし同時に豊満な肉体だ。フランツは拒もうと思っても、シャツからさらけ出された谷間を目にして自然と生理的な欲求が生じてしまった。


「シュルツさん!」


 ハロスの腕がナイフで切り裂かれる。血は流れず即座に元に戻るが、フランツは一瞬の隙に逃れた。


 メアリーだった。


「お前、なんで今頃、のこのことやってきた」


 フランツは喧嘩腰で訊いた。


「のこのことなんてことないけどな。ずっと尾いてきたぜ。蝙蝠になってな」


「なら、なんですぐ目の前に現れなかった」


「ズデンカが厳しいからな」


 ハロスは舌なめずりした。


「お前は人間には興味ないとか言っていなかったか?」


「ああ、ないがよ。ただの虫か鼠ぐらいには思ってる。だが、喋る鼠がいれば面白いじゃねえか? そういう感じだな」


 喋る鼠、というのは鼠の三賢者のことを暗示しているのだろう。そう言えば、メルキオールとカスパールはズデンカの服の中に入ったままだ。


――どこまで知っているのか。


  信用できない相手ではある。ズデンカとなにやら繋がりがあるらしいが、どこまで深いかはわからない。


 ズデンカは信用できる。フランツが今までやりとりしてきた感じでははっきりとそう断言できる。


 だが、その仲間が信用できるとは限らない。もとより仲間なのかどうかすらわからない。実際ズデンカは随分邪慳にハロスを扱っていた。


「死人に口なしってどういう意味だ?」


 バルトロメウスが訊いた。


「死んでいった吸血鬼は語らないってことさ。それは人間だって同じだったはずだぜ。ケケケ」


 ハロスは笑った。


「当たり前だろうが」


「だがお前ら人間は吸血鬼を不死者だと思っている。いや、そんなことはない。消えていったやつはたくさんいるって訳だ」


「いや、それは私ちゃんが存じ上げたんですよ。吸血鬼で幼いうちに狩られるものは多いって話をしたところであなたが来たというわけで」


 メアリーは敵意を込めた目つきでハロスをにらんだ。これはただ単に闖入者への警戒からではない。


 それが証拠にフランツは自分の手が強くメアリーに握られていることに気づいた。


「とは言え、お前は吸血鬼としての生を生きたわけではない。所詮人間が半端な知識で語っているに過ぎない。ばかばかしい」


 ハロスは余裕の笑みを浮かべてメアリーを見た。


 メアリーはもう片手でナイフを構える。


「よせ、メアリー」


 ファキイルが言った。


「そういやファキイルも味方に付けてたんだよな、お前ら」


 ハロスはそう言いながら多少後退した。やはりファキイルの力は抑止力になるらしい。


「お前とは喧嘩をしたいわけではない。だが死人に口なしというなら、俺たちシエラフィータの民だってそうだった。語りたくて語りきれず、殺されていったものたちはたくさんいる」


 フランツはハロスを見据えて語った。


「そんなこと言ったって、そいつには通じませんよ」


 メアリーは言葉を荒げてハロスを『そいつ』とまで呼んだ。

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