表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1184/1231

第百六話 死人に口なし(7)

「だが、別れるとしてもルナに挨拶して別れないと決まりが悪い。寝ているときに出て行ったらそれこそズデンカに殺される」


「殺されてもいいじゃないですか。殺されたくないなら戦うべきです。あなたは吸血鬼とも戦わなければならない」


 メアリーは笑いながら言った。


「吸血鬼と戦ってどうする? 吸血鬼にされてその力で戦うのか」


「それもありですね。長丁場で戦えるようになるのですから。ところでジナイーダさん、あの方吸血鬼ですよね」


「なんだと?」


 フランツは驚いた。


「え、気づいてませんでした? 明らかに人間とは違う雰囲気がありますよ?」


「そ、そうなのか……」


 フランツは驚いていた。


「ズデンカさんと同じヴルダラクでしょうね」


「なんでわかるんだ? お前も吸血鬼なのか?」


「もちろん違います。知識と雰囲気ですね」


「そんなんでわかるものなのか」


「あ、確かになんか人間とは違うんだなあとは思ってましたよ」


 オドラデクが答える。


「あれはヴルダラクだ」


 ファキイルまでが答えた。


「気づいてないの俺だけかよ……」


「俺も気づいてなかったぞ」


 バルトロメウスがひっそりと答えた。


「注意深くない人は気づかないでしょうね。別にこちらに危害はないわけで、気づかないところで問題はありませんが」


 メアリーは落ち着いて言った。


「ズデンカなみに強いのか?」


「ジナイーダさんはズデンカと比べて強くはないと思われます。気迫のようなものはありませんからね」


「じゃあ戦力にはならないか」


 フランツは肩の力を落とした。ズデンカみたいなやつが二人もいれば百人力だと一瞬考えてしまっていたからだ。


 結局それは弱い自分を認めることになるのだから、考えてしまえばかなりの恥だ。


「十年二十年もすれば――吸血鬼としてはかなり短いですが――使い物になるんじゃないでしょうか? おそらくとても若い、成り立ての吸血鬼でしょうから」


「と、いうことはキミコとは同い年なのか? 吸血鬼の実年齢はわからん。百年は生きてそうなズデンカも若く見えるからな」


 フランツは訊いた。


「おそらく。そんなに違いはないと思いますよ」


「そうか。吸血鬼でも生まれたては弱いんだな」


「ええ。吸血鬼は意外に生き残る者が少ないですからね。多くは狩られてしまい、同世代でも残るのは少数」


「そんなものなのか」


「だからズデンカさんはよっぽど強いんでしょうね。あそこまで生きてこられているのだから」


「ああ、そうだな。やつには勝てない。勝てる気がしない」


 フランツは苦々しく言った。


「死人に口なしというやつさ」


 フランツはびっくりして立ち上がった。聞こえ覚えはあるが、ちょっと前に訊いた声が話しかけてきたからだ。


 ハロスだ。吸血鬼のハロスがいきなり部屋の中に現れたのだ。


 先日ミュノーナの仮の屋で別れて以来だった。


「ど、どうやってこの部屋に入った?」


「蝙蝠に化けてさ。鉄壁の要塞とやらも案外緩いんだあ」


 ハロスはフランツの頭を押さえつけてごしごしとした。


「な、何をする」


 フランツは焦った。しかし抵抗できない。それほど歴然とした力の違いを感じる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ