第百六話 死人に口なし(6)
冷え冷えとした室内には机の周りに木の椅子が四つ並べられて、奥にはベッドが見えた。
「ここなら少しは休めるな。ルナ、寝て置け」
「はあい」
ルナはごねるかと思っていたが素直に従った。
疲れているのだろう。ベッド横たわったかと思うとすやすや寝息を立て始めた。
「やれやれ、これで落ち着ける」
フランツは椅子に腰を掛けた。
「あ、お茶を汲んで参りますね」
キミコはフランツをなかばにらみながらも口調は丁寧に言って部屋の外へと出て行った。
「わ、私も行ってくる」
ジナイーダは焦りながらキミコについていった。フランツとはまだ親しく言葉を交わしていないから警戒を怠っていないようだ。
キミコは同年代だから親しくないとしても、まだましなのだろう。
「静かになったようで良いですね。私は紅茶が飲みたいです。いや、コーヒーでも結構ですが」
メアリーはフランツの隣に腰掛けていた。
「あいつらもう出て行ったぞ。まあお茶にするって言ってたから、お前の望むとおりになるだろう」
フランツは皮肉交じりに行った。
「ここのは美味しくないでしょう。オリファントの茶葉が一番新鮮ですよ。交易で新しいものを手に入れてるのですから」
「お前の国は各地を植民地にして支配していたからな」
「ええ、そうですよ。現在どんどん独立が進んでますけどね」
メアリーは他人事のように語った。
まあ実際他人事だ。
「オルランドの茶もうまいぞ。俺はよく飲む」
「へえ、フランツさんの舌を信じるなら一度飲んでみたいですね」
相変わらずメアリーは皮肉っぽい。
「ここで飲めるかは知らんがな」
「フランツさん、お二人だけの世界に入ってるのは良いですけど、そろそろ考え直しましょうよ。ぼくらはルナ一行と別れて行動するべきじゃないですか?」
オドラデクは言った。
「べ、別に二人だけの世界に入っていないぞ」
フランツは焦った。
だがオドラデクの本当に痛いことは後半だと気づいて、続けた。
「確かに俺はスワスティカの残党を狩るのが目的ではある。だがルナ・ペルッツは友人でもある」
「情に絆されたんですね」
「……」
正論だった。ルナのためにここまで来てしまっているが、猟人の本分からずれていることは言うまでもない。
だがルナの敵はスワスティカの大物ジムプリチウスでもある。ルナの側にいることはスワスティカを狩ることにもつながると自己弁護しながらここまで来た。
ルナを絶対に守ることをズデンカと約束したから、も理由としてある。
だが極端に言えばフランツがルナ一行に構っている余裕はないと言える。
ルナを要塞に阿づけることも出来たわけだし、ここらで袂を分かっても良いのかもしれないのだ。
だが。
人間としての感情はそれを拒絶している。フランツはルナの側にいたいのだ。
見守っていたいのだ。
「シュルツさんはミス・ペルッツのそばにいたいんですもんね」
メアリーがややつまらなそうな顔で横から言った。
心のなかを言い当てられたようでフランツは面食らった。
「い、いや別にそう言うんじゃないが」
「そう言うんじゃないなら別れましょうよ。それが良いですって」
オドラデクがすかさず言う。




