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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百六話 死人に口なし(2)

「どちらにしろ早く着いてほしいよ。やっぱり車は嫌いだ」


 自称反救世主とかいう大蟻喰がごねた。 


 フランツはこの人物(と呼んでいいのか微妙だが)が非常に苦手だ。


 スワスティカとその残党を憎んでいるのは確からしく、敵でこそなさそうだが、フランツはまだどういう人物か詳しく知らないため警戒を怠ることは出来ないのだった。


「嫌いなら降りれば良いんですよ。何で今まで乗ってきたんですかねえ」 


オドラデクは煽った。


「そりゃルナがいるからだよ。キミらがルナをずっと抱き込んでいるから。本来は要塞? みたいなところにいくべきじゃないんだよ。ルナにふさわしくない」


 大蟻喰は頰杖を突きながら言った。


「でもミス・ペルッツみたいな誰からも狙われているような人を安全に置いておける場所なんてそうそうないじゃないですか」


 処刑人のメアリー・ストレイチーが言った。


 さっきからしばらくは黙っていたのだ。


「だから、それはボクが要塞にでも何でもなるよって言わなかったか? ズデ公だって牛馬の用には立つだろう」


「あたしは牛馬じゃねえよ」


 ズデンカは大蟻喰をにらんだ。


「いや、ぴったりだと思うよ。キミはルナの馬車馬みたいなものじゃないか」


「もう馭者役はやってねえよ」


「お二方もいて、なおかつ要塞で守られていれば完璧じゃないですか?」


 メアリーは訊いた。


「おう、話をすれば見えてきたな」


 フランツは言った。


 バスの車窓から遠くにそびえる巨大な鉄壁の建物が見えた。


 幾重もの壁で囲われ、銃眼が設けられている。


 シュトローブルの中心に位置する要塞だ。鉄壁の防禦を誇り、大戦中でも陥落することは出来なかったという。


 ミュノーナが落ちてスワスティカが滅んだ後、自然と無血開城する流れになったようだ。


 そもそもスワスティカの造反組のほうが力のある地域だったため、士気もそれほど期待できなかったのだ。


 戦時中は幾度もスワスティカ高官が視察に来ていたというのに、結局街の主流派を押さえこむことが出来なかったのだ。


 このあたり親カスパー・ハウザーで有り続けた隣町のヒルデスハイマーとは大違いだ。


「あそこに入るのかー」


 ルナは少し青ざめた顔で呟いた。何よりも旅が大好きなルナにとっては、あんな場

所には一刻も居られないという感じなのだろう。


 フランツとて長居したい場所ではなかった。しかし合理的に考えて、今のルナを守れるのはあそこしかいない。


そこまで考えたとき、車体が大きく揺らいだ。


「お待ちしてましたよ」


 聞き覚えのある声。とても嫌な声だった。カミーユ・ボレルだ。


 トゥールーズの処刑人で脱走してサーカスに入り、ナイフ投げをしていた人物。


 メアリーの追い求める対象。


 そして、殺人鬼でもある。


「クソッ。こいつ。ボクの背中に乗ってますよ!」


 オドラデクが叫んだ。


「振り落とせ! 何とか方法はないか」


 ズデンカが言った。


「んなむちゃな。運転だけで精一杯なのにい!」


 オドラデクはわめいた。

 

 天井に何かが突き立てられた。


 鎌だ。

 カミーユが先日ミュノーナで振り回していたものだろう。

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