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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第百五話 師であり友である人は世に知られないまま残った(10)

「ルナ・ペルッツは最高の素材だ。まさかこのようなことが可能になるとは思っても見なかった。彼女の能力を抽出した結果さまざまな力を持つ道具を作り出せるようになった。例えば最近作ったのは合成妖精を封じ込めたシャンパヴェールのトランプだ」


 ざっとこのような内容だ。カミーユはシャンパヴェールのトランプはもともとスワスティカが作り出したとは知っていたがハウザーが関わっていたのは初耳だった。


 まあ自然と推測できる範囲の話ではあるのだが、事実としてハウザーと特定できるのは大きい。


「ペルッツは手元に置いておかなければならない。誰にも盗まれてはいけない。まだまだいくらでも力を引き出せるに違いない」


 ハウザーはそうも書いていた。意外にジークムントにはいろいろ打ち明けていたようだ。おそらくジークムントは返信は出さなかったのだろう。


 しかし、あれだけ悪口を言ってもなおこの手紙を焼き捨てなかったのは奇妙なようにカミーユには思われた。


「あんなにまで憎まれ口を叩いて、ねえ」


 カミーユは呟いた。


『だからこそ憎まれ口を叩くのかも知れないぜ』


 声が答えた。隠していた『告げ口心臓』からだろう。


 ジムプリチウスだ。


「理解できない感覚ですね」


 カミーユは答えた。


『男同士はあえて相手をけなして見せたりするもんだぜ』


 ジムプリチウスが言う。今日はやけに気さくな感じだ。機嫌が良いのだろうか。


「悪口を言えば言うほど親愛の情が増すみたいな感じですかね?」


 カミーユは全くの想像で言った。


『まあそんなところだな。この感覚が理解できないやつはろくでもないって思う。端的に言って女がそうだよな』


 ジムプリチウスにしたら妙に直情的だ。


「理解できなくて申し訳ありませんでしたね」


 カミーユは答えた。


 普段ならつまらないと思う類いの会話だ。だが今日はなぜか少し話してみたくなる。


『お前は理解できない。お前は女だし、感情が全くわからない類いの人間だ』


 ジムプリチウスが言う。


「ええ、ご明察です。私はまったく人間の感情が理解できません」


『それじゃあ、人の心は操れない。よく理解しないと、意味がない』


「ここでばらして良いんですか」


 カミーユは訊いた。何しろ『告げ口心臓』を持っているものはみんな訊くことが出来るのだから。


『良い。みんな俺に騙されたいし、それは俺自身がよくわかってる』


「私は人の心を操りたいわけじゃありません。私はただ殺したいだけです……でも今回は本当につまらなかった。ジークムントさんは勝手に死んだだけです」


『確かにあいつはどうしようもないやつだったな』


 ジムプリチウスが珍しく同意した。


「ええ。人生に文句をたれながら生まれた町を出て行くこともせず、結局死ぬまで其処を離れなかった」


『そんなやつは別にたくさんいる。どうしようもないのはやつがハウザーとか変わったことだ』


「あー、やっぱりそこですか」


 カミーユは興味を引かれた。ハウザーとジムプリチウスはスワスティカ内では犬猿の仲だったとされている。


 おだてれば話を聞き出せるかも知れない。


 ジークムント以上に。

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